デザインは再び川上発想に…

今回は、前回のマーケティングの流れから、ユーザーとなる顧客(市場)の変化についての考察です。

企業在籍時に商品企画部門の担当者と協議する際、どうも話しが噛み合わない、目指す方向が共有できない場面に、しばしば出くわします。
何が起こっていたのかを冷静に考えてみると、ターゲットになるユーザーの捉え方が異なるケースが時々あることに気が付きます。

4つのターゲット

営業の現場は、競合して負けた他社の商品の利点を並べ、自社のモデルに足らない商品力の補填を以て「次期モデル」の姿として、企画部門に情報をもたらします。【今の理想】
企画部門はそれを踏まえ、3〜5年後(車の場合)の未来を想定し、予想も含めその時点でのあるべき姿を企画としてまとめます。【未来の現実】
しかし実際は、「未来のある時点の現実」に於いて、競合が同じ歩幅で進んで行けば、同じ様に競合することは必至です。 更に一歩先んじる為に、未来の現実を想定した上での「理想」を求める視点が必要になります。【未来の理想】
私がいた車の世界では、一般的なプロダクトに比べ開発期間が長いこともあり、その間に想定される理想の範囲が広く、何処に着地点(特徴)を見出すかにより商品像をよりクリアに出来る可能性もあります。

デザイナーは往々にして【未来の理想】を目指す傾向があるのではないでしょうか?
それはデザイナーが、普段から「ビジュアルとして未来を描く」ことに慣れているからではないかと考えています。
機能や性能といったスペックの動向は、ある程度の業界相場や市場相場があるのに対し、人の気持ちを左右するビジュアルの価値は、仮説や想定によって表現の幅が無限に広がっていくからです。

【今の理想】【未来の現実】【未来の理想】「営業の現場」「企画の定番」「デザイナーの志向」と読み替えると、それぞれが何を出発点にしているかで、開発の規模感や売り方など、様々な場面で噛み合わない議論が出てくるのは当然とも言えます。

更にマーケットを複雑にしているのは、顧客個々の多様性です。
今やデモグラフィー(人口統計学)で、市場を切り分けることが、難しい時代です。
例えば…「20代独身男性」といったところで、昔の様なステレオタイプな人間像は浮かび上がって来ないのではないでしょうか?

音楽

また…人は複雑化する価値観や多様化する考え方の中で上手く人間関係を維持していく為に、1人で何人もの人格を演じ分けたり、憧れと現実のギャップを埋めて理想的なイメージを実現する為に商品を見つめているのではないでしょうか?

裏表ターゲット

戦後モノの無い時代に始まった「川上発想」(モノを作れば売れた時代)から「川下発想」(マーケティングが主流になり「顕在ニーズ」を具現化する時代)を経て、「川底発想」(マーケティングミックスにより「潜在ニーズ」を掘り起こす時代)に暮らす現在、各メーカーが「理想と掲げるビジョン」を問い、老若男女問わず共感してくれる人がターゲットとなる「この指止まれ – 時代」になっているとするならば、デザインは再び「(高度な)川上発想」に戻るべきなのかも知れません。

ものづくりの現場は、「デモグラ発想」から、より共感を呼ぶ「ビジョンの提示」の時代に入っているのです。
学生の皆さん、溢れる情報の中「ものづくり」は、これから益々「何でもあり」の時代になります。 益々しっかりした自分の考え方が問われる時代ですね。

プロダクトデザイン 金澤