海を見よ

私にとって初めての講義クラスが始まって、今回で12回目。
残すところ3回、大切に1コマ、1コマ進めて行きたいと思います。

今回は、マーケティングとブランドについての予定で資料を作ったのですが、いつもの前回レポートの紹介から派生して、最近読んだ本を1冊、御紹介しました。

立教新座中学・高等学校校長の渡辺憲司著の「時に海を見よ」という本です。
一時、ネットでも話題になりましたので御存知の方も多いかも知れません。
3.11で卒業式が出来なくなってしまった立教新座高校の卒業生に贈られたメッセージを中心に、体験から得た御自身の考えを綴られた本です。

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以下に、一部を引用させて頂きます。
・・・・・
誤解を恐れずに、あえて、抽象的に云おう。
大学に行くとは、「海を見る自由」を得るためなのではないか。

〜中略〜

中学・高校時代。君らに時間を制御する自由はなかった。遅刻・欠勤は学校という名の下で管理された。又、それは保護者の下で管理されていた。諸君は管理されていたのだ。

大学を出て、就職したとしても、その構図は変わらない。無断欠勤など、会社で許されるはずがない。高校時代も、又会社に勤めても時間を管理するのは、自分ではなく他者なのだ。それは、家庭を持っても変わらない。愛する人を持っても、それは変わらない。愛する人は愛する人の時間を管理する。

大学という青春の時間は、時間を自分が管理できる煌めきの時なのだ。

池袋行きの電車に乗ったとしよう。諸君の脳裏に波の音が聞こえた時、君は途中下車して海に行けるのだ。高校時代、そんなことは許されていない。働いてもそんなことは出来ない。家庭を持ってもそんなことは出来ない。

「今日ひとりで海を見てきたよ。」

そんなことを私は妻や子供の前で言えない。大学の友人ならば、黙って頷いてくれるに違いない。

〜中略〜

時に、孤独を直視せよ。海原の前に一人立て。自分の夢が何であるか。海に向かって問え。青春とは、孤独を直視することなのだ。直視の自由を得ることなのだ。大学に行くということの豊潤さを、自由の時に変えるのだ。自己が管理する時間を、ダイナミックに手中におさめよ。流れに任せて、時間の空費にうつつを抜かすな。
・・・・・

この後にも力強いメッセージが続きます。 そして改めて「大学に行くことの意味」を考えさせてくれるメッセージだと思います。
「自由」という厳しい自己責任の海に漕ぎ出すのが大学の4年間なのかも知れません。
「時間を自分が管理できる煌めきの時」「直視の自由」という言葉が、心に刺さります。

学生の皆さんは、自分を見つめる為の貴重な4年間を過ごしています。 時間をどう使うかは皆さんの裁量で決まるのです。
80年代「モラトリアム」という言葉が流行した時代がありました。「大学生」を「肉体的には大人であるが、社会的義務や責任を課せられない猶予の時間」と捉え、どちらかと言うと…「甘えの時間」という、ややネガティブに揶揄する表現でした。

勿論「自由」というのは何をしても良いことでは無く、本当は「自由」ほど自己の責任が重くのしかかる選択肢はありません。 指示に従って動く限り、失敗の責任の一端は指示した者にも求めることが出来るかも知れませんが、自分が自由に選んだ選択肢には誰も責任を取ってはくれないからですね。

著者の渡辺憲司氏は「モラトリアム」の時期を積極的に、そして大いに悩み、有意義に生きよと説いています。 何を優先すべきか、今の自分は何をすべきかを自分でしっかり考え判断せよ…自己を直視する「かけがえのない時間」を生きよと教えてくれています。
自分の成長を願い、自分を見つめ必死に悩むことこそ、4年間の大学生活に与えられた皆さんの「特権」なのだと思います。

 

今回のエピソードの発端は、毎週のレポートによる「今日は後ろの方で私語が多かった」という学生からの訴えでした。
自分が成長していく中で、大人になる尺度のひとつを「どれだけ広く自分以外の人のことを考えることができるか」と捉えると、自分の行為が周囲にどう影響するかをイメージする「想像力の欠如」が「私語にブレーキを掛ける理性」を邪魔してしまうのだと思います。

関心の無い話題もあるでしょう。
しかし、どんなことでも自分の状況に置き換えて吸収できない…簡単に無関心になってしまえる姿勢はとても不幸なことだと感じます。
ハングリーな気持ちで「ものづくり」に取り組んでいれば、様々なことが自分の為にヒントをくれている様に感じることが出来るでしょう。
勿論、最終的には役に立たないことも関心が無いこともあるでしょう。 「海を見よ」ではありませんが、本当に自分にとって大切な優先すべきことがあるのなら、自信を持って退室される方があなたを成長させるかも知れません。

私はこの歳になって益々学びたいと感じる様になりました…時間を無駄に過ごす若い人達が残念でなりません。 無駄に使うなら私に下さい…と思うほど、一刻一刻が消費されていくことに心が痛みます。
学生の皆さんには、どうぞ貴重な4年間を過ごして欲しいと願うばかりです。

今回のブログは授業の内容とは無関係になってしまいました・・勿論、殆どの方が真面目に受講して下さっていますが、学生からの訴えから、自由を見つめることと自分を律すること…大学に通う意味を改めて考えさせてくれた1冊の本を思い出し、皆さんに「私語」についても「大学に通う意義」「自分の成長」として考えて頂くきっかけになれば…と感じています。

プロダクトデザイン 金澤