日本人という価値

この9月、私にとって初めての講義クラスがスタートして4ヶ月。
次回、最終回はレポート作成に当てますので、スライドを使用する講義は今回が最後です。

プロダクトデザイン論は、中国からの留学生にも聴講して頂いていますが、最終回は、私たちが発信する「ものづくり」の根底にある「日本」について考えてみたいと思います。

先週の授業では、ユーザーの多様性という視点から、溢れる情報の中で「『らしさ』の減少」というワードを使いました。
今回は…それでも尚、私たちが発信したりモノを評価する場面では、無意識に「日本人DNA」というフィルターが作用しているのでは…という話。

今の「日本らしさ」を代表するアニメや漫画が重要な輸出産業になっていることは知られていますが、60年代からのロボット世代は言うに及ばず、江戸末期の浮世絵にも新しい表現手法が取り入れられ、現代の漫画のルーツとも言える展開を見ることができます。

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また、海外で暮らした経験のある人なら、多かれ少なかれ、カルチャー・ショックという形で、日本の良いところ、悪いところ…是非を超えて「日本と海外の差異」を感じたことがあると思います。

そしてそれらを良いと感じるか、抵抗感を受けるかは、私たちが育ってきた日本の風土・文化とは決して切り離すことができない…脈々と流れる血の様な感覚によるものだと感じます。

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逆に言うと、敢えて「日本」を意識しなくても、私たちがアウトプットする作品には、自然と日本人らしさが息づいているのかも知れません。

昔、アメリカの言語学の本を読んだ際、印象に残ったフレーズがあります。
「アメリカ人は、世代が新しくなるほど、純粋なアメリカ人になっていく」というものです。

著者の言語学者によると、アメリカ人というのは、移民してきたファーストジェネレーションは、いわばヨーロッパやアフリカ、アジアなどから新しい何かを求めて自国を捨て、或は自国を追われて来た外国人集団に過ぎず、世代を下るに連れ次第に本当のアメリカ人になっていく。 つまり子供の方が親よりも、よりアメリカ人だと言うのです。
新しい世代に入れ替わっていくことこそが、より一層アメリカになっていくこと‥新しいモノに変わっていくことに価値が見出され、他人と違うことを尊び、主張をぶつけ合うことで理解を深める国民性。

日本人の私には非常にカルチャーショックでした。 何故なら私達は他に逃げ場の無い島国で長い歴史を持ち過去の遺産と伝統を守ることを尊び、世代が新しくなるほどに純粋な日本人では無くなっていくとさえ考えるからです。
4000年の歴史と言われる中国も次々に王朝が交代した歴史であり、万世一系で1500年もの間存続している国は日本以外には無く、島国という閉鎖的な環境と相まって、独特な文化・風習・価値観が根付いたことは想像に難くありません。
守り続けることに価値を見出し、皆と同じであることに安堵し、言わずもがなで相互理解することを得意とする国民性。

四季を愛で、自然に畏敬の念を持ち、全てのものに魂や慈しみを感じ、共存することに知恵を使い、細かい気遣いや気配りが得意…   相手の立場に立ってものを考えるデザイナーには、とても向いた国民性を持っている様に思えます。

でも一方では、自己主張が苦手で、突飛なことに抵抗感を持ちやすい気質は、デザイナーには不向きな一面かも知れませんね。

私がアメリカで留学生として暮らしていたのは、もう25年近く前のことになりますが、他の学生達が小さい頃からディベート能力を鍛えられ、どんなアウトプットでも自信満々に主張する姿には圧倒されつつも感心したのもでした。
日本人にはメンタリティ的に抵抗がある様な場面でも、厚かましくも逞しく生きている彼らの精神的な自立性は見習うべきと感じました。

私達がこの国:日本に暮らすことで培っている価値観は、世界に通用するクリエィティブな活動に息づいています。 悩み、迷うこと多き毎日ですが、将来、海外も舞台に活動を夢見る方々には、日本人らしい優しさと、日本人が苦手な図太く逞しい自己主張とのバランス感覚が求められているのかも知れませんね。

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授業の最後には、人生80年を1日(24時間)の尺に当てはめたスケールを皆さんと共有しました。

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20歳前後の皆さんは、1/4日が過ぎたところ…朝の6時頃です。 まだ皆さんは御自身の才能を眠らせている時間…少し早起きな人は目覚め始めている時間ですね。 天気が良ければ(元気に一生懸命生きて行けば)、素晴らしい1日が待っているはずです。

そして、50を過ぎた私でさえ、まだ午後3時、(頑張れば)きっと美しい夕焼けを見ることが出来るはずですね。

プロダクトデザイン 金澤