日本人という価値

この9月、私にとって初めての講義クラスがスタートして4ヶ月。
次回、最終回はレポート作成に当てますので、スライドを使用する講義は今回が最後です。

プロダクトデザイン論は、中国からの留学生にも聴講して頂いていますが、最終回は、私たちが発信する「ものづくり」の根底にある「日本」について考えてみたいと思います。

先週の授業では、ユーザーの多様性という視点から、溢れる情報の中で「『らしさ』の減少」というワードを使いました。
今回は…それでも尚、私たちが発信したりモノを評価する場面では、無意識に「日本人DNA」というフィルターが作用しているのでは…という話。

今の「日本らしさ」を代表するアニメや漫画が重要な輸出産業になっていることは知られていますが、60年代からのロボット世代は言うに及ばず、江戸末期の浮世絵にも新しい表現手法が取り入れられ、現代の漫画のルーツとも言える展開を見ることができます。

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また、海外で暮らした経験のある人なら、多かれ少なかれ、カルチャー・ショックという形で、日本の良いところ、悪いところ…是非を超えて「日本と海外の差異」を感じたことがあると思います。

そしてそれらを良いと感じるか、抵抗感を受けるかは、私たちが育ってきた日本の風土・文化とは決して切り離すことができない…脈々と流れる血の様な感覚によるものだと感じます。

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逆に言うと、敢えて「日本」を意識しなくても、私たちがアウトプットする作品には、自然と日本人らしさが息づいているのかも知れません。

昔、アメリカの言語学の本を読んだ際、印象に残ったフレーズがあります。
「アメリカ人は、世代が新しくなるほど、純粋なアメリカ人になっていく」というものです。

著者の言語学者によると、アメリカ人というのは、移民してきたファーストジェネレーションは、いわばヨーロッパやアフリカ、アジアなどから新しい何かを求めて自国を捨て、或は自国を追われて来た外国人集団に過ぎず、世代を下るに連れ次第に本当のアメリカ人になっていく。 つまり子供の方が親よりも、よりアメリカ人だと言うのです。
新しい世代に入れ替わっていくことこそが、より一層アメリカになっていくこと‥新しいモノに変わっていくことに価値が見出され、他人と違うことを尊び、主張をぶつけ合うことで理解を深める国民性。

日本人の私には非常にカルチャーショックでした。 何故なら私達は他に逃げ場の無い島国で長い歴史を持ち過去の遺産と伝統を守ることを尊び、世代が新しくなるほどに純粋な日本人では無くなっていくとさえ考えるからです。
4000年の歴史と言われる中国も次々に王朝が交代した歴史であり、万世一系で1500年もの間存続している国は日本以外には無く、島国という閉鎖的な環境と相まって、独特な文化・風習・価値観が根付いたことは想像に難くありません。
守り続けることに価値を見出し、皆と同じであることに安堵し、言わずもがなで相互理解することを得意とする国民性。

四季を愛で、自然に畏敬の念を持ち、全てのものに魂や慈しみを感じ、共存することに知恵を使い、細かい気遣いや気配りが得意…   相手の立場に立ってものを考えるデザイナーには、とても向いた国民性を持っている様に思えます。

でも一方では、自己主張が苦手で、突飛なことに抵抗感を持ちやすい気質は、デザイナーには不向きな一面かも知れませんね。

私がアメリカで留学生として暮らしていたのは、もう25年近く前のことになりますが、他の学生達が小さい頃からディベート能力を鍛えられ、どんなアウトプットでも自信満々に主張する姿には圧倒されつつも感心したのもでした。
日本人にはメンタリティ的に抵抗がある様な場面でも、厚かましくも逞しく生きている彼らの精神的な自立性は見習うべきと感じました。

私達がこの国:日本に暮らすことで培っている価値観は、世界に通用するクリエィティブな活動に息づいています。 悩み、迷うこと多き毎日ですが、将来、海外も舞台に活動を夢見る方々には、日本人らしい優しさと、日本人が苦手な図太く逞しい自己主張とのバランス感覚が求められているのかも知れませんね。

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授業の最後には、人生80年を1日(24時間)の尺に当てはめたスケールを皆さんと共有しました。

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20歳前後の皆さんは、1/4日が過ぎたところ…朝の6時頃です。 まだ皆さんは御自身の才能を眠らせている時間…少し早起きな人は目覚め始めている時間ですね。 天気が良ければ(元気に一生懸命生きて行けば)、素晴らしい1日が待っているはずです。

そして、50を過ぎた私でさえ、まだ午後3時、(頑張れば)きっと美しい夕焼けを見ることが出来るはずですね。

プロダクトデザイン 金澤

デザインは再び川上発想に…

今回は、前回のマーケティングの流れから、ユーザーとなる顧客(市場)の変化についての考察です。

企業在籍時に商品企画部門の担当者と協議する際、どうも話しが噛み合わない、目指す方向が共有できない場面に、しばしば出くわします。
何が起こっていたのかを冷静に考えてみると、ターゲットになるユーザーの捉え方が異なるケースが時々あることに気が付きます。

4つのターゲット

営業の現場は、競合して負けた他社の商品の利点を並べ、自社のモデルに足らない商品力の補填を以て「次期モデル」の姿として、企画部門に情報をもたらします。【今の理想】
企画部門はそれを踏まえ、3〜5年後(車の場合)の未来を想定し、予想も含めその時点でのあるべき姿を企画としてまとめます。【未来の現実】
しかし実際は、「未来のある時点の現実」に於いて、競合が同じ歩幅で進んで行けば、同じ様に競合することは必至です。 更に一歩先んじる為に、未来の現実を想定した上での「理想」を求める視点が必要になります。【未来の理想】
私がいた車の世界では、一般的なプロダクトに比べ開発期間が長いこともあり、その間に想定される理想の範囲が広く、何処に着地点(特徴)を見出すかにより商品像をよりクリアに出来る可能性もあります。

デザイナーは往々にして【未来の理想】を目指す傾向があるのではないでしょうか?
それはデザイナーが、普段から「ビジュアルとして未来を描く」ことに慣れているからではないかと考えています。
機能や性能といったスペックの動向は、ある程度の業界相場や市場相場があるのに対し、人の気持ちを左右するビジュアルの価値は、仮説や想定によって表現の幅が無限に広がっていくからです。

【今の理想】【未来の現実】【未来の理想】「営業の現場」「企画の定番」「デザイナーの志向」と読み替えると、それぞれが何を出発点にしているかで、開発の規模感や売り方など、様々な場面で噛み合わない議論が出てくるのは当然とも言えます。

更にマーケットを複雑にしているのは、顧客個々の多様性です。
今やデモグラフィー(人口統計学)で、市場を切り分けることが、難しい時代です。
例えば…「20代独身男性」といったところで、昔の様なステレオタイプな人間像は浮かび上がって来ないのではないでしょうか?

音楽

また…人は複雑化する価値観や多様化する考え方の中で上手く人間関係を維持していく為に、1人で何人もの人格を演じ分けたり、憧れと現実のギャップを埋めて理想的なイメージを実現する為に商品を見つめているのではないでしょうか?

裏表ターゲット

戦後モノの無い時代に始まった「川上発想」(モノを作れば売れた時代)から「川下発想」(マーケティングが主流になり「顕在ニーズ」を具現化する時代)を経て、「川底発想」(マーケティングミックスにより「潜在ニーズ」を掘り起こす時代)に暮らす現在、各メーカーが「理想と掲げるビジョン」を問い、老若男女問わず共感してくれる人がターゲットとなる「この指止まれ – 時代」になっているとするならば、デザインは再び「(高度な)川上発想」に戻るべきなのかも知れません。

ものづくりの現場は、「デモグラ発想」から、より共感を呼ぶ「ビジョンの提示」の時代に入っているのです。
学生の皆さん、溢れる情報の中「ものづくり」は、これから益々「何でもあり」の時代になります。 益々しっかりした自分の考え方が問われる時代ですね。

プロダクトデザイン 金澤

海を見よ

私にとって初めての講義クラスが始まって、今回で12回目。
残すところ3回、大切に1コマ、1コマ進めて行きたいと思います。

今回は、マーケティングとブランドについての予定で資料を作ったのですが、いつもの前回レポートの紹介から派生して、最近読んだ本を1冊、御紹介しました。

立教新座中学・高等学校校長の渡辺憲司著の「時に海を見よ」という本です。
一時、ネットでも話題になりましたので御存知の方も多いかも知れません。
3.11で卒業式が出来なくなってしまった立教新座高校の卒業生に贈られたメッセージを中心に、体験から得た御自身の考えを綴られた本です。

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以下に、一部を引用させて頂きます。
・・・・・
誤解を恐れずに、あえて、抽象的に云おう。
大学に行くとは、「海を見る自由」を得るためなのではないか。

〜中略〜

中学・高校時代。君らに時間を制御する自由はなかった。遅刻・欠勤は学校という名の下で管理された。又、それは保護者の下で管理されていた。諸君は管理されていたのだ。

大学を出て、就職したとしても、その構図は変わらない。無断欠勤など、会社で許されるはずがない。高校時代も、又会社に勤めても時間を管理するのは、自分ではなく他者なのだ。それは、家庭を持っても変わらない。愛する人を持っても、それは変わらない。愛する人は愛する人の時間を管理する。

大学という青春の時間は、時間を自分が管理できる煌めきの時なのだ。

池袋行きの電車に乗ったとしよう。諸君の脳裏に波の音が聞こえた時、君は途中下車して海に行けるのだ。高校時代、そんなことは許されていない。働いてもそんなことは出来ない。家庭を持ってもそんなことは出来ない。

「今日ひとりで海を見てきたよ。」

そんなことを私は妻や子供の前で言えない。大学の友人ならば、黙って頷いてくれるに違いない。

〜中略〜

時に、孤独を直視せよ。海原の前に一人立て。自分の夢が何であるか。海に向かって問え。青春とは、孤独を直視することなのだ。直視の自由を得ることなのだ。大学に行くということの豊潤さを、自由の時に変えるのだ。自己が管理する時間を、ダイナミックに手中におさめよ。流れに任せて、時間の空費にうつつを抜かすな。
・・・・・

この後にも力強いメッセージが続きます。 そして改めて「大学に行くことの意味」を考えさせてくれるメッセージだと思います。
「自由」という厳しい自己責任の海に漕ぎ出すのが大学の4年間なのかも知れません。
「時間を自分が管理できる煌めきの時」「直視の自由」という言葉が、心に刺さります。

学生の皆さんは、自分を見つめる為の貴重な4年間を過ごしています。 時間をどう使うかは皆さんの裁量で決まるのです。
80年代「モラトリアム」という言葉が流行した時代がありました。「大学生」を「肉体的には大人であるが、社会的義務や責任を課せられない猶予の時間」と捉え、どちらかと言うと…「甘えの時間」という、ややネガティブに揶揄する表現でした。

勿論「自由」というのは何をしても良いことでは無く、本当は「自由」ほど自己の責任が重くのしかかる選択肢はありません。 指示に従って動く限り、失敗の責任の一端は指示した者にも求めることが出来るかも知れませんが、自分が自由に選んだ選択肢には誰も責任を取ってはくれないからですね。

著者の渡辺憲司氏は「モラトリアム」の時期を積極的に、そして大いに悩み、有意義に生きよと説いています。 何を優先すべきか、今の自分は何をすべきかを自分でしっかり考え判断せよ…自己を直視する「かけがえのない時間」を生きよと教えてくれています。
自分の成長を願い、自分を見つめ必死に悩むことこそ、4年間の大学生活に与えられた皆さんの「特権」なのだと思います。

 

今回のエピソードの発端は、毎週のレポートによる「今日は後ろの方で私語が多かった」という学生からの訴えでした。
自分が成長していく中で、大人になる尺度のひとつを「どれだけ広く自分以外の人のことを考えることができるか」と捉えると、自分の行為が周囲にどう影響するかをイメージする「想像力の欠如」が「私語にブレーキを掛ける理性」を邪魔してしまうのだと思います。

関心の無い話題もあるでしょう。
しかし、どんなことでも自分の状況に置き換えて吸収できない…簡単に無関心になってしまえる姿勢はとても不幸なことだと感じます。
ハングリーな気持ちで「ものづくり」に取り組んでいれば、様々なことが自分の為にヒントをくれている様に感じることが出来るでしょう。
勿論、最終的には役に立たないことも関心が無いこともあるでしょう。 「海を見よ」ではありませんが、本当に自分にとって大切な優先すべきことがあるのなら、自信を持って退室される方があなたを成長させるかも知れません。

私はこの歳になって益々学びたいと感じる様になりました…時間を無駄に過ごす若い人達が残念でなりません。 無駄に使うなら私に下さい…と思うほど、一刻一刻が消費されていくことに心が痛みます。
学生の皆さんには、どうぞ貴重な4年間を過ごして欲しいと願うばかりです。

今回のブログは授業の内容とは無関係になってしまいました・・勿論、殆どの方が真面目に受講して下さっていますが、学生からの訴えから、自由を見つめることと自分を律すること…大学に通う意味を改めて考えさせてくれた1冊の本を思い出し、皆さんに「私語」についても「大学に通う意義」「自分の成長」として考えて頂くきっかけになれば…と感じています。

プロダクトデザイン 金澤

材料を知る者はデザインを制す!(かも)

今回は、プロダクトデザイン論で初めての招聘講師を招いての講義としました。

来て頂いたのは、古巣である三菱自動車工業の企画管理部で担当部長を務めておられる加藤和彦氏です。

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彼は、材料技術部門での長いキャリアを持ち、その後も購買部門、生産技術部門、現在の企画管理部門と「ものづくり」の現場の要所を歴任して来られ、今回のテーマである「材料と加工方法」の枠を専門的な知見(購買視点の材料・生産技術視点の材料)を以て話し出来る方として、ずっと「頼んでみたい」と思っていました。

彼は、理系の畑に進み現職に至っていますが、実はモノを作ることが大好きで、学生時代はデザインの世界に進むか技術の世界に進むかで随分迷った経歴をお持ちです。 デザインや音楽に対する造詣も深く、「表現」の話しが通じる数少ない技術屋魂を持った人物です。
また、彼は「教育」というこれからの日本を背負う後進の育成にも強い情熱を持っており、社内でも数々の企画を立てておられます。

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今回のお話も「材料」をテーマに、デザイナーが知っておくべき、或いは意識しておくべき市場や環境の変化、ものづくりに携わるための気持ちの在り方など、啓示に富んだ内容だったと思います。

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デザインの発想を形にしていく段階で必ずぶち当たるのが、コストや生産技術要件です。
目標コストに収める為の工法や材料の吟味、板金を絞れる限界を知った上での深さやカーブ、似た様な形で型費を抑えるテクニック…枚挙にいとまがありませんが、理想的なスタイリングを実現する為に、設計者や生産現場のノウハウを持つ技術者達の協力は不可欠です。

同時にデザイナー自身が経験的にこれらのノウハウの知っておくことも大切です。 …それは、様々な要件を飲み込んだ上で形状を考える為でもあるのですが、私が三菱での在籍時代に感じていたのは、むしろ設計と戦う為の武装行為であったと思います。

若いスタッフから「設計要件がこうなので、〜にしかなりません。」という報告が上がってきた時には、(内心で、落とし所はそうかも知れないと思いながらも)「君は設計者か? デザイナーでしょ! 君が知るべきは「出来ない理由」では無くて「近づける条件」です。「〜しかならない」なんてユーザーの知ったことでは無い。 金を掛ければ出来るのか、時間を掛ければ出来るのか、仕向地を限定すれば出来るのか、台数を増やせば出来るのか…オプションを提示しなさい。それが出来ないなら、要件を逆手に取るアイデアを出しなさい。」そんな会話が日常でした。 そうこうする内に本人が糸口を見つけたら「それいいじゃん!」と本人の手柄に膨らませるのが私の仕事でした。

話しが逸れましたが、デザイナーが色々な要件を知り置く必要があるのは、いい子になって形に妥協する為では無く、設計やサプライヤーに対等に戦いを挑む為だった様に思います…そんなに設計に対抗意識を燃やさなくても良かったのかもしれませんが、インハウスでデザイナーをしていると、黙っていてもデザイン形状にNGを出してくる部門は幾らでもありますので、デザイン部門はデザインに対してのベストを押し通す覚悟で臨む必要があったのだと思います。

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加藤さんには、昔デザイン本部内でも講演をお願いしたことがありました。 説明資料の右上に三菱のマークが付いた社内書式のパワーポイントの画面を見ながら、彼が懐かしい声で活き活きと車の開発の話しをしているのを聞いていると…何故、彼とC-305 でこんな話をしているのかしら…と不思議な気持ちになりました。

材料はとても広く深い世界です。 多くのことを一気に知ることは難しいですが、材料に関する知識があらゆるデザイナーにとって大きな武器になることは請け合います。
「何故、こんなところにこんな材料を…?」 …今回の講義を受けて、そんな風に「モノ」を見ることが出来る様になれば素晴らしい成果です。

プロダクトデザイン 金澤

ゴーヤは、それほど苦くない。

今回は、知的財産権とデザインの話。

私達プロダクトデザイナーの権利を守ってくれるのは意匠権。 でもアートやアニメ、漫画やジュエリー、建築、イラストやグラフィック…造形大で学んでいる他コースの皆さんの作品も、ちゃーんと著作権や商標権で守ることが出来ます。

企業にいた時には、専門の知財部門があり、言われるままに新型モデルの6面図とデザインの狙いや特徴などを書いた書類を揃え提出したものですが、造形大に来てからは自ら知的財産管理技能士の資格を取る…そんな関わり合いをすることになりました。

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(画像は、実際に意匠登録に使用したRVRという車の外観とインパネの6面図+斜視図)

授業では、ニュースになった過去の意匠権争い事案の紹介と関連する法律の概要をおさらいした後、特許庁から頂いた意匠権に関するビデオの視聴。

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公共機関が作るビデオ特有の独特なお芝居の「わざとらしさ」に苦笑しながらの40分。 でも学生の皆さんのウイークリーレポートでは「分かりやすい内容で意匠権の大切さがよく判った…」と好評…やるな特許庁。
詳細は、下尾先生の「ものづくりの法律」で詳しく学んで頂くこととして、こういった法律の存在や意義・目的などを正しく理解しておくことが、とても大切な時代になってきたことを受け、興味を持って頂く導入編としては、まずまずの反応だった様です。

最近の企業の現場では、デザイナーといえど様々な知識や経験が求められています。
本業の創作物の保護に関するものは勿論、社内でのプレゼンテーションに使用する資料作りやイメージパネルを作る際のカタログ写真の版権、代理店さんとの打ち合わせ時に交わすNDA(秘密保持契約)、新型モデルが掲載された雑誌の社内回覧の是非…等々、日常の間接業務に於いても気を付けなければいけないことが沢山あります。 私が所属していた会社は、過去に引き起こしてしまった不祥事を教訓にして、コンプライアンスに関する徹底的な意識改革を図り、日常の中で法令に関連する情報に触れる機会もずっと増えました。 どの企業も法令遵守に関しては、かなり真剣に取り組んでいます。

デザイナーは…医者や法律家の様に資格のある商売ではありません。 感覚と経験を積み重ね、普通の人よりはユニークな視点で物事を見つめ、新しい発想と美しい創造で人の気持ちを動かす商売ですが、難しい試験を突破した訳でも沢山の法律を憶えた訳でもありません。
「センスで勝負するんだー!」と叫びたい気持ちは分かりますが、私達「ものづくり」を学ぶ人間にとって「作りっ放し」ではいけない時代なのです。 自分の権利を守る為だけでは無く、むしろ知らない内に他人の権利を脅かしかねないこと…それが大きな責任として身に降りかかってくる危険に敏感になる必要がある時代なのです。

資格は持っておいて邪魔になることは絶対にありません。
私も4月に赴任して、下尾先生の「ものづくりの法律」のクラスを受講させて頂きました。
まだ受講していない方に、ちょっぴり予告編…「著作権の定義:思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの…」こんな難しい文章を一発で憶えることが出来る「下尾メソッド」が満載。
特許発明、出願5パック、意匠法、商標法…等々、嘘の様にあれよあれよと憶えちゃいます。(通販番組みたいになってきた…)

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50を過ぎた私が3ヶ月勉強して知財3級に受かるところまでガッツリ教えて頂きました。
皆さんの若い頭なら、ちゃんとやれば絶対に大丈夫!

是非、知的財産管理技能士の試験にもチャレンジして下さい!
確かに法律は難しいですが…苦いゴーヤは、下尾先生が美味しいチャンプルに料理してくれますから、安心して食べなされ!

 

プロダクトデザイン 金澤

ものづくりの現場

早いものでカリキュラムも2/3近くを消化しました。
4月から赴任した私にとって、実技授業もさることながら…講義授業は、また別の手探り感があり…ある意味スリリングで緊張感たっぷり…ドキドキとワクワクと反省のヘビーローテーション状態です。
そんな中…今回は、車の開発プロセスについての解説。

へへへ…これは30年近くやってきた専門分野なので、目を瞑っていてもしゃべれる話題です。 逆に話したいことが幾らでもあるので、90分に収まる様、かえってシンプルに説明する資料作りに往生…思いつくままに作った資料は当初100ページを超え、どんどん削除、どんどん合体…なんとか60ページ前後に収め…いざ出陣。 駆け足でしたが最後まで行きました。
学生の皆さんにとっては「いい迷惑」で、情報がオーバーフローしたかと思いきや、現場でのコンセプトパネルやスケッチ、クレイモデルや風洞試験の様子など、普段あまり目にすることの無い画像には関心を寄せてくれた学生もいた様です。

 

私にとって車のデザインは30年間の糧であった訳ですが、「自分が携わったモデルが街中で活き活きと走る姿」は、いつも「狂喜乱舞する喜び」を倍増し、「七転八倒した苦しみ」を半分にしてくれる魔法のモチベーションでした。 「ものづくり」の現場には、お金以上の宝(もしくは万病に効く特効薬)が埋まっていて、日々それを掘り起こすほどに、喜びを得、苦しみを緩和してきたのだ…学生の皆さんに資料を説明しながら、そんなことを考えました。

正直にお話しすると、企業というリアルな「ものづくり」の現場から離れることには…当初、戦線離脱する様な寂しさや悔いが残るのでは無いかといった気持ちもゼロではありませんでした。しかしながら、教育の現場では自分の手掛けたプロダクトが世の中に出て行く訳ではありませんが、大学は大学で「ものづくり」の現場に違いはなく、今では車よりも遙かに大切な…沢山の「これからの才能」と一緒に時間を過ごしていることが何よりも幸せです。 むしろ様々な制約が少ない分だけ、純粋に「ものづくり」に傾注できる素晴らしい環境だとさえ思います。

教育の現場は、一時的とは言え、他人様の人生を預かる商売ですから、大変恐い仕事だ…といつも感じています。 しかしながら若い世代の皆さんと時間を共有することは、私にとっても大変大きな刺激です。 50を過ぎて、自分が社会人として現役でいることが出来る残りの時間を如何に悔いの無いものにしようか…転職を考えたきっかけはそんなことでした。色々な御縁があって、幸せなことに昔から関心のあった現場にようやく辿り着き半年経ったところです。

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取り分け、プロダクトデザイン論の配当年次である1年次生の皆さんは、私の再スタート時に入学された…絶対に忘れることが出来ない学年です。 毎回皆さんから提出頂くレポートは、即ち、その日の私の講義に対する評価書ですので…毎回読むのは、楽しみ半分/不安半分なのですが、いつも見事なイラストや独自のイメージ的語呂合わせなどを盛り込んだ右脳全開の作品のお陰で、最近は楽しみの方が多くなってきた様です。 これも私の大切な幸運のひとつです。

 

プロダクトデザイン 金澤

本物(実物)を見て、大いに議論しよう!

2回のワークショップ型授業を終えて、平常通りの講義型に戻りました。
今日は、幾つかのプロのデザイナーの作品を見ながら、その発想方法や着眼点、デザイナーが形に込めた意味を知るプログラムがひとつ…これは、本当は発想方法のヒントのひとつとして、ワークショップ型の前にやりたかったのですが、予定していた10月6日が台風で臨時休校になった為、順番が後先になってしまいました。

もう1つは、ちょっと堅いですが、産業革命以後の近代デザイン史の流れを俯瞰するプログラム。
私達が毎日目にする…様々なプロダクトの自由なデザインの意味を考える時、プログラム前半のデザイナーの発想と合わせて、時代の中での意義を想像することで、モノの理解が深まることを意図しています。

私が大学に進学したのは1981年…まさにポストモダンの代表とも言える多国籍デザイナー集団「メンフィス」が結成された年でした。 グループの中心的存在だったソットサスの…訳の分からないポップな形態と奇抜で刺激的な色…でも何故か底抜けにパワフルなエネルギーの発露…反逆とも言える形の解放を謳ったムーブメントにワクワクした記憶が残っています。

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同時に…私にとって、デザインとは何なのか…が判らなくなった迷いの時代でもありました。
観念的な呪縛やクライアントからの制約が無かったなら、デザイナーはどんなものを作れるのか…必然から、かけ離れながらも、デザイン…いや、スタイリングが「見ていて楽しい」価値を提供し始めた時代だったのかも知れません。 折しも日本はバブルに浮かれ、秩序も論理も、品位や道徳までも…力業で突き進もうとしていた「何でもあり」の時代感覚とシンクロしていた様に思えます。 学生時代は友人達と生意気に「デザイナーとして超えてはいけない一線を越えているか?」などと言った議論を偉そうにした記憶があります。

(画像は、http://ja.wikipedia.org/wiki/メンフィス_(デザイン)より引用)

時代は遡って、1903年にマッキントッシュがヒルハウス邸の寝室用にデザインしたハイバックチェア(通称:ヒルハウス)も、学生時代の強烈な記憶として残っています。 一見シンプルな構造のモダンな椅子ですが、アーツ・アンド・クラフツ運動の理念であるクラフトマンシップを尊重し、土着の伝統的な要素の復興に由来したデリケートな造形です。

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楕円柱の脚は、前の2本は上から下へ、後ろの2本は下から上にテーパーが施され、東洋的なイメージさえ醸し出す格子状のバックトップ、緩やかなアーチのラダーなどの繊細な造りは、明らかに鑑賞する価値を椅子に与えた新しいアプローチだったことが想像出来ます。 大学生当時、六本木のAXISにカッシーナ社が入っていた頃、写真で見るよりも小振りで凜とした存在のヒルハウスを何度も見に行ったことを思い出します。 アルガイユやウイローチェア、リートフェルトのレッド&ブルーやジグザグなど、キリがありませんが、プロダクトデザインの黎明期の作品は、「何か普通じゃ無いモノ」として、若き日の記憶に鮮明に焼き付いています。

(画像は、http://www.timus.co.jp/shopdetail/017001000029/ Designer’s Funiture TIMUS より引用)

今の学生の皆さんにも是非、本物(実物)を見る機会を増やして欲しいと思います。
浪人時代、幾度と無く描いたブルータスの石膏像の原型…ミケランジェロ作の胸像を初めて上野の美術館で見た時に、その荒々しいノミの跡や迫力に感動し、それまで自分が描いてきた石膏像がなんてツルツルの情けない立体だったのか…と感じた様に、本物の迫力を知る機会を増やして欲しいと思います。

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(画像は、http://www.wga.hu/html_m/m/michelan/1sculptu/2/  WEB GALLERY of ART より引用)

胸像ごときで感動できた当時の自分が懐かしい…否、まだまだ感受性旺盛です。

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今回はそんな思いもあって、前述エットーレ・ソットサスのオリベティ時代のマスターピース、バレンタイン(タイプライター)を持ち込みました。 当時、強烈な印象を放ったであろうオレンジのプラスチック、バケツの様なケース、何よりその佇まいに古き良きデザイナーの反逆精神を読み取って下さい。(ウイークリーレポートには「かわいい」とのコメントが多数…可愛い…のか?)

プロダクトデザイン 金澤

不時着した宇宙船から生還できたか!?

毎回、クラスの始めに前週のレポートの中から興味深いコメントを披露し、思うところを話すことにしています。
今回取り上げたのは、先週体験したブレーンストーミングの中で出てきた「相手のコメントを批判(否定)しない」というルールについて。
学生のコメントには「相手(の意見)を否定しないというのは案外難しい」とありました。

私達は…通常、何かを改善していく時には、現状を否定することを前提にしています。 良くしたいと思うからこそ、否定材料を改善すべきポイントとして探す習慣を持っています。また、自分の意見が明快であればあるほど、それ以外の意見には違和感を憶えるのも自然なことでしょう。

企業にいた時には…例えばモデルチェンジです。 商品企画の人間は営業部門から現行車の不評点をリストアップし「次期車では、これらを変えて欲しい。」…そんな企画書(らしきもの)がよく上がってきます。
でもデザイナーにとって、そんなものは企画書でも何でも無いのです。
今しか見ていない営業の現場と、ネガを直せば売れると無邪気に信じている企画からは、何も生まれません。
取り分けマイナーチェンジを買ってくれるユーザーは、心の何処かで現行車を肯定しているのです。 根本的に現行車を認めていない人には、何処をマイナーチェンジしても売り上げが挽回するとは思えない。
ネガ潰しだけでは決して顧客の満足度は上がらない…何に魅力を感じてくれているかを冷静に見て、それを更に伸ばす…外してはいけない部分を知ることが大事だと考えてきました。
「ネガ潰し」と「ポジ伸ばし」…前者は直って当たり前…ただ業界標準に並ぶだけ、後者はブランド価値に繋がる大切な視点と捉えるべきでしょう。
アイデアを出す時にも「否定」の箍(たが)を嵌めると現実的な「解決方法」にばかり頭が働き、箍を外すと夢への「実現方法」に思いを馳せる様になるのではないでしょうか?

先週・今週は、皆さんの貴重な土曜日を頂いて2コマ続きで、アイデア発想とグループ討議のワークショップ型授業です。
先週は、ブレーンストーミングを通して、個人では思いつかない領域に発想を拡散する体験をしました。

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これは、あくまでも開発で言えば初期の初期…アイデアを拡げるステージ。
アイデアを拡散させた後には必ず「合意形成」が必要です。 声が大きい人の意見が正しい訳でも、時間切れで最後に残っていたアイデアが優れている訳でもありません。
大切なのは「設問(目的)」を最初に共有すること。 チームの目指す方向が同じでこそ、議論が可能となります。

取り上げたのは「NASAプロジェクト」…これは月面で不時着した宇宙船の船員が、母船と合流する為に宇宙船に残された15品目の優先順位を決めるゲームです。 1/6の重力や真空、磁場の有無、母船との距離等の前提条件から、どういう作戦を立てるかでモノの優先順位が変わります。

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最初のチーム発表から、いきなり「300kmを移動する危険よりも母船からの助けを待つ」作戦が議論されていた点は、ビックリ! 先週、紹介した「批判的思考」(客観的事実から全てのことを疑ってみる)を実践しているではありませんか! スゴーイ!!

合意した優先順位そのものよりも、作戦(コンセプト)を合意するプロセス、コンセプトに沿った優先理由(判断基準)の共有を体験して頂けたでしょうか?

そして、皆さんは無事生還できたでしょうか?!

プロダクトデザイン 金澤

台風の後は、頭脳嵐です。

急な出張、台風、芸術祭…と想定外に3週間をスキップして、ほぼ1ヶ月振りになってしまったプロダクトデザイン論。
今週・来週は、皆さんの貴重な土曜日を拝借し、2コマ続きでアイデア開発の体験学習を実施します。
1回目の18日は、3週抜けていきなりの土曜日ですので、出席率が低かったのは残念ですが、グループワークには丁度良いボリュームだったかも知れません。
前半に一般的なアイデア開発法として知られる手法を紹介し、後半はブレーンストーミングを通してテーマに沿った理想のプロダクトをイメージします。

先ずは、ウォーミングアップ!

皆さんに前に出てきてもらい、60秒で誕生日順に並んでもらいます。 但し、一言も喋ってはいけないルールです。
戸惑いながら、誰かが指で数字を示すサインを作ってアピールし始めます。 次第にそれが伝播しながら、みんなが相手の数字のサインを読み取ろうとしながら移動が始まります。
時間が限られていますので、後半は加速度的に伝播がスピードアップします。
結果は、誕生日が10月以降の人達が若干、混乱。 これは、2桁月2桁日の人達が、指のサインでは上手く数字を特定することが難しかったからの様ですが、9月迄はほぼ見事に誕生日順に並びました。
時間に余裕があれば、紙に書いたものをアピールしたり、免許証を掲げたり、誰かが壇上に上がり交通整理をしたり…と様々なアイデアが出てきた筈です。 しかし皆さんは時間の制約を考慮した上で、最も簡便で確度の高い方法をあっという間に暗黙裏に共有し、同じ目的に向かって行動することが出来ました。
「時間の尺度」と「解決すべき問題のハードル」のバランスを取ることは、アイデアを開発していく上で、非常に重要なことです。
そばで見ていると、誰かが突破口を開くトリガーとなり、全体を導く大きな動きを生み出す様子が分かります。 とてもダイナミックで感動的な瞬間でした。

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ブレーンストーミングには幾つかのルールが紹介されていますが、基本は「絶対に(相手を)批判しない・(自分を)否定しない」に尽きるでしょう。 人の意見に「Yes, and …」で膨らませていくことで、当人達も予想していない突拍子も無いイメージが見えてくることが醍醐味ですね。 何を発言しても大丈夫という安心の上に、ポジティブなスタンスで議論に臨むことが成功の鍵!

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開発のステージにもよりますが、企業でも初期段階でアイデアを拡げるだけ拡げるフェーズでは実践しています。 三菱では通称「おやかま」(やかましく議論が白熱するから)、ホンダでは「ワイガヤ」(ワイワイ・ガヤガヤ)なんていう隠語もあるくらいです。

デザイナーに限らず、創造することを学ぶ私達は、常にアイデア創出との戦いです。 講義クラスですので、ワークショップ型の授業には少し不安がありましたが、皆さんの「ノリ」に助けてもらい、とっても楽しい授業になりました。 さすが、クリエイティブな人達の集まりです。 授業後のレポートでも沢山の方が「他の人のアイデアに刺激を受けた」「自分の考え方が広がった」「楽しかった」等のコメントを書いて下さって涙がでました(T^T)

 

プロダクトデザイン 金澤

9/22 学生のレポートは宝の山!

2回目の今回は画像をふんだんに使った資料を用意しました。

keynoteのページにして50ページ。

時間が足りないか…と思いましたが、途中に動画も入れて何とか予定通りに収めました。

当日、提出してもらったレポートでも、むしろビジュアルで理解頂けた分、それなりに楽しんで下さった方も多く、眠たくならなかった…なんて書いてくれた学生もいて嬉しくなりました。

今回は、先週に出した課題のレポート「自分が好きなデザイン(デザイナー)」も合わせて提出頂きましたので、ウィークリーレポートと合わせて「至福の時」×2です。

学生のレポートを見ていて感じるのは、皆さんなりに一生懸命に言葉を紡ぎ、何かを伝えようともがいている姿が見えた時の愛おしさです。

課題レポートも画像あり、スケッチあり…美大生のアウトプットの楽しいこと!

絵の上手な人はビジュアルで印象に残るノートを取り、文字だけの人も自分で見易い工夫を凝らす…下手でも取り組む気持ちや姿勢が見えると思わず「いいぞ!頑張れ!」とエールを贈りたくなります。

おまけに今回は「とても感動する授業でした。 改めてデザイナーという職業が素敵だなと思った…」と夢の様なコメントを書いて下さった学生もいて、「伝えたい想い」に一層拍車が掛かります。(このレポート、記念にコピーしとこうかな…)

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皆さんが(良いことも悪いことも)一生懸命書いてくれたレポートは、私の宝物です。

一言一句、誠意を持って読ませて頂き、時間の許す限り出来るだけコメントも書かせて頂く様にしていますので、最後までしっかりお付き合い下さい。

 

プロダクトデザイン

金澤