材料を知る者はデザインを制す!(かも)

今回は、プロダクトデザイン論で初めての招聘講師を招いての講義としました。

来て頂いたのは、古巣である三菱自動車工業の企画管理部で担当部長を務めておられる加藤和彦氏です。

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彼は、材料技術部門での長いキャリアを持ち、その後も購買部門、生産技術部門、現在の企画管理部門と「ものづくり」の現場の要所を歴任して来られ、今回のテーマである「材料と加工方法」の枠を専門的な知見(購買視点の材料・生産技術視点の材料)を以て話し出来る方として、ずっと「頼んでみたい」と思っていました。

彼は、理系の畑に進み現職に至っていますが、実はモノを作ることが大好きで、学生時代はデザインの世界に進むか技術の世界に進むかで随分迷った経歴をお持ちです。 デザインや音楽に対する造詣も深く、「表現」の話しが通じる数少ない技術屋魂を持った人物です。
また、彼は「教育」というこれからの日本を背負う後進の育成にも強い情熱を持っており、社内でも数々の企画を立てておられます。

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今回のお話も「材料」をテーマに、デザイナーが知っておくべき、或いは意識しておくべき市場や環境の変化、ものづくりに携わるための気持ちの在り方など、啓示に富んだ内容だったと思います。

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デザインの発想を形にしていく段階で必ずぶち当たるのが、コストや生産技術要件です。
目標コストに収める為の工法や材料の吟味、板金を絞れる限界を知った上での深さやカーブ、似た様な形で型費を抑えるテクニック…枚挙にいとまがありませんが、理想的なスタイリングを実現する為に、設計者や生産現場のノウハウを持つ技術者達の協力は不可欠です。

同時にデザイナー自身が経験的にこれらのノウハウの知っておくことも大切です。 …それは、様々な要件を飲み込んだ上で形状を考える為でもあるのですが、私が三菱での在籍時代に感じていたのは、むしろ設計と戦う為の武装行為であったと思います。

若いスタッフから「設計要件がこうなので、〜にしかなりません。」という報告が上がってきた時には、(内心で、落とし所はそうかも知れないと思いながらも)「君は設計者か? デザイナーでしょ! 君が知るべきは「出来ない理由」では無くて「近づける条件」です。「〜しかならない」なんてユーザーの知ったことでは無い。 金を掛ければ出来るのか、時間を掛ければ出来るのか、仕向地を限定すれば出来るのか、台数を増やせば出来るのか…オプションを提示しなさい。それが出来ないなら、要件を逆手に取るアイデアを出しなさい。」そんな会話が日常でした。 そうこうする内に本人が糸口を見つけたら「それいいじゃん!」と本人の手柄に膨らませるのが私の仕事でした。

話しが逸れましたが、デザイナーが色々な要件を知り置く必要があるのは、いい子になって形に妥協する為では無く、設計やサプライヤーに対等に戦いを挑む為だった様に思います…そんなに設計に対抗意識を燃やさなくても良かったのかもしれませんが、インハウスでデザイナーをしていると、黙っていてもデザイン形状にNGを出してくる部門は幾らでもありますので、デザイン部門はデザインに対してのベストを押し通す覚悟で臨む必要があったのだと思います。

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加藤さんには、昔デザイン本部内でも講演をお願いしたことがありました。 説明資料の右上に三菱のマークが付いた社内書式のパワーポイントの画面を見ながら、彼が懐かしい声で活き活きと車の開発の話しをしているのを聞いていると…何故、彼とC-305 でこんな話をしているのかしら…と不思議な気持ちになりました。

材料はとても広く深い世界です。 多くのことを一気に知ることは難しいですが、材料に関する知識があらゆるデザイナーにとって大きな武器になることは請け合います。
「何故、こんなところにこんな材料を…?」 …今回の講義を受けて、そんな風に「モノ」を見ることが出来る様になれば素晴らしい成果です。

プロダクトデザイン 金澤