2018年度 愛知県下美術系大学の卒展を経て

前期も折り返し地点を過ぎました。新入生も、ようやく大学生活にも慣れ、同時進行する課題のやりくりに苦心しながらもコツを掴み始めたのではないでしょうか?

所属しているJIDA(日本工業デザイナー協会)では、次世代育成事業のひとつとして、愛知県下の美術系大学/専門学校の卒業制作展を訪問しています。

2018年度を振り返り雑感をまとめる機会を得ましたので、下段リンクにて紹介します。
御笑覧下さい。
造形大からは、神林さんのプレゼン風景と、西尾くんの作品が画像で紹介されました。

http://www.chubu.jida.or.jp/activity/sotuten_2018_report

ライフデザイン 金澤

2018年度卒業制作展振り返り

今年も無事に卒業制作展/修了制作展が幕を下ろしました。
今年は7名の学部生と3人の大学院生(内2人はジュエリーコースからの進学)が、1年間を掛け各自のテーマに沿って研究を進めてきました。
会場にて御覧頂くことが出来なかった皆さんにも是非学生達の頑張りを感じて頂きたいことと、頑張った学生達への餞(はなむけ)と私自身の振り返りとして、まとめておきたいと思います。もしお時間が許せば最後までお付き合い下さい。

岩崎希美:コモレビの巣


振り返ると…彼女は最も担当教員達をハラハラさせてくれた学生のひとり。彼女の中では一貫していたのかも知れないが、レビューする度にテーマや立ち位置が拡散していく感覚を覚えた。
最終的には、スマホに代表される常時接続感と溢れる情報に囲まれた今の生活に危機感を持ち、物理的なパーソナルスペースと仮想的なパーソナルスペースの在り方について考え、彼女なりの「モノ」に落とし込んだ。
当初、彼女は「20代の私が発信出来るプロダクト」を意識し、等身大の生活に潜むテーマの焙り出しを目的に、毎週毎に様々な「○○が無い暮らし」をスタートさせた。「○○」の代わりに前時代に戻る代用品や、無くても工夫すれば何とかなることが見えてくると…必ずしも「モノ」に依存しなくても成立する「生活」の中で、次第に「便利」と引き換えに手放してしまった穏やかな時間の大切さを意識し始めたのではないかと思う。「何もしないこと」を助けるプロダクト…という「カタチ」にするには少々やっかいなテーマに辿り着いた。穏やかな時間を妨げる過度な情報量がもたらす「錯覚」という「現実と認識のズレ」に興味を持ち、様々な事例とその要因を分類分けするところからスタートした。IT情報機器の存在で人と人との距離感が変わるにつれて、心地良い物理的なパーソナルスペースの変化、精神的なパーソナルスペースの変化、SNS(仮想空間)に於けるパーソナルスペースの定義、「おひとりさま」ビジネスの背景にある若い世代のマインドセットなどを分析したコンセプトスタディーは面白かった。
理屈はともかく、雛人形の巨大ボンボリの様な彼女の作品は、中に入った際、もたれるのに心地良い角度の柱の上に、肩、頭の高さにゆったりした空間が広がり、天窓に向かって収束するユニークでありながら、意外と(失礼)人間工学的で合目的なカタチとなった。中に入ると、肩から上は強化和紙で目隠しされ、紙越しに入ってくる外光を穏やかに拡散してくれる。肩から下は素通しの為、外の気配を感じることで、閉塞感無く適度に外界をシャットアウトできる実に心地良い空間となった。天窓に施した透かし模様が床の中央付近に影を落とし、紙、白木の素材感と合わせ、和の雰囲気を感じさせる世界観を備えている。本人によると「鳥の巣」をイメージした造形と素材とのこと。過度な情報をもたらす「web」が、「蜘蛛の巣」で獲物を捕らえるためのトラップだとすると、「鳥の巣」は「nest」。命を育み、これから巣立つ為の充電をする場所がモチーフになっているのは納得出来るメタファーだ。作品は「展示後譲り受けたい」という申し出が複数あり、多くの共感を得た様だ。当初の計画から素材や構造が(作業を進めながら)どんどん変わっていった経緯は…良く言えばフレキシブルだが、次の日には計画が変わり、目指すモノが2転3転するプロセスは心臓に良くなかった。当初、透かし彫りのMDFで仕上げようとしていたシェード部を強化和紙に変更したのは、怪我の功名というか…結果オーライな心変わりだった。天窓の格子柄パーツは精度が出ずに残念だった。
最後の最後まで木工を中心とした工房での作業に「間に合わない、間に合わない…」を繰り返す毎日だったが、彼女はいつも明るく笑顔で乗り切る強さも持っていた。「テヘッ」キャラの彼女は、身振り手振りが活発で、じっとして喋れないユニークな体質だが、その明るさにみんなが救われていたと思う。

加藤香奈:マルマル


JIDA努力賞、おめでとう。
年度の最初に卒制の研究テーマを発表するプレゼンテーションを実施するが、彼女の研究テーマは「一生、引きこもれる室内テント」。「いっ…一生引きこもるの?…」前述の岩崎といい、学生のみんなは、そんなに煩わしい毎日を生き、ストレスに苛まれ、逃げ出したくて、ひとりになりたくて大変な思いをしているのか…と思いたくなる様なプレゼンが続いた。確かに何もせずにゴロゴロするのは気持ちいいけどね…。中間審査の時には「心も体も安らぐベッド」にテーマが変わり、少し安心。天蓋付きベッドや、アルニオのボールチェア、モンゴルのゲルの様なテントや蓑虫の様に袋に入ってぶら下がる寝袋の様な提案まで色々な形態を模索したが、最終的には、心が落ち着く空間の研究の中で、体内環境を取り上げた。身体を丸めて自分の体積を小さくすることが安心感や落ち着きに繋がり、程良い凹型の受け皿が小さくなった身体を包む様にホールドしてくれる寝心地は、確かに気持ちが良い。余り激しくスイングするのは気持ちが悪くなりそうだが、「マルマル」は底部がラウンドしており、姿勢を変える時に適度に揺りかご効果が得られる。説明パネルの画像(本人)の様に丸まって中心部に小さくなる姿は、花の形を模した造形と相まって、御伽噺のワンシーンの様な微笑ましさを感じる。実際に寝転んでみると、身長が175cmの筆者でも安定的に乗ることが可能で、花びらのひとつに頭を乗せる角度で仰向けになると、頭の両側の花びらが肩をサポートし、残りの2つの花びらが太腿の裏側をサポートしてくれる。この感覚を体験すると、単に可愛くて花のカタチにした訳ではないことが理解できる。足を投げ出し床に付け、寝転ぶだけでも凹型が適度に身体をホールドしてくれるので、なかなかの寝心地である。クッションは硬さ(軟らかさ)が座り心地の大切な要因となり、凝った作りになると部位によって硬さを使い分け体圧分布をコントロールするものも多いが、マルマルは比較的硬めのウレタンを使用しているため、不必要に身体が沈み込むことが無く、揺りカゴの様に揺れてもしっかりしたホールド感を得ることができる良いバランスに仕上がったと思う。表皮はトリコットスエード調の柔らかな肌触りに、穏やかで優しいベージュをセレクト。狙いに対する表現としても妥当性を感じさせ、作品の理解を助ける良いチョイスだと思う。惜しむらくは、スイングする為の台座…合板を格子状に組み、床に直交するエッジをラウンド形状に削り転がる動きを持たせたが、合板に沿った向きと沿わない向きでスイングするフィーリングが異なる「転がりムラ」の様な現象が起きた。工作作業は難しくなるが、放射線状に合板を組み、同心円状に補強する構成の方が「転がりムラ」が少なく、また上屋の花びらの形状とのマッチングも良かったのではないかと思う。また、クッションを天板に位置決めする為に、天板上の5カ所に唇型の突起パーツを設けてあるが、この唇型の両端をシャープにすると強度的にも弱く危害感も出るためR処理を施した。合板はステイン仕上げ、ベースの天板には明るいピンクのカットパイルを敷いた為、このR処理の部分でここだけピンクのカーペットが露出することとなり、遠目で見た時の花びら型のシルエットにはノイズとなった。カーペットの色をステインに合わせたダークなものにするか、一回り台座を小振りに設計し、花びらの下に隠してしまうディテールでも良かった。
花びらのひとつひとつと中心の円形はずれない様に嵌められてはいるが、固定されてはいない為、それぞれを取り出し、クッションや椅子として自由に使用できる。いつも穏やかな性格の彼女らしい優しい作品を見ていると、人柄と作風(世界観)にはやはり切っても切れない関係があり、彼女の個性が魅力的に…文字通り「花開いた」作品になったと思う。筆者も含めて…展示では本当に沢山の人が実際に寝転んでみて「欲しい…」と思わせたのでは無いかと感じた。

神林さやか:指道具


JIDA優秀賞、コース論文賞、おめでとう。
彼女は、ロジカルな思考がしっかりしていて、コンセプト作りの視点やアプローチがユニークな学生だ。最初に驚いたのは、2年生の課題で学外のコンペにチャレンジするプロジェクトを進めた際、彼女は飄々と国際コンペで3位を獲得し、早くからコンセプト、アイデアやその表現に於いて頭角を表していたこと。3年生の課題で取り組んだ「引っ掛ける」というワードから展開したプロダクトでは、木材の持つ「しなり」や「しなやかさ」を巧みに利用したハンガーを考案した。普段は短冊が並んだ壁面の一部が、モノを掛ける時に短冊のひとつが弓の様にしなり荷物をホールドする仕組みで、自然のテンションの美しさと従来のハンガーの姿に縛られない「モノ」のカタチを見せてくれた。今回の作品は、この時の経験が自分の中でしっくりきた実感を反芻する様に「動作」が持つ「言葉」に早くから注目し、何百もある動詞を片っ端から検証/分類し、人の所作とデザイン(カタチ)との関係を考えることからスタートした。今やスマホで…指一本で様々なことをコントロールできる時代。器用も不器用も関係の無く望む結果を手に入れることができる有り難い時代であるが、反面、それらは本来の指の繊細で感受性豊かな感覚を排除し、単なる操作の道具に成り下がることだと彼女は考える。手や指の機能を「運動器官」「感覚器官」「伝達器官」の側面から考察し、それらを切り離さず複合的に使うことで、より多くの情報をモノから得たり、より繊細に制御できる様になる表現手段としての「手(指)の復権」が彼女の大切なメッセージである。レポートでは、解剖学的な手の機能や動き、文学的な比喩で使用される手の持つ表現力の豊かさにまで言及し、手の本質を見出そうとした内容が展開され読み応えがあった。リサーチした膨大な情報を整理し考え方を組み立てていく上で、自分の考えやアイデアを文章としてまとめておくことは、その後のパネル制作やプレゼンテーション時にも有効であると考え、今年度初めて、卒業制作に加え論文を課題として課した。苦労した学生も多かった様だが、彼女の設定したテーマ、着想、考察と文章力を見て、ささやかだがコース内で「論文賞」を設け、彼女に授与することとした。
さて、作品では様々な道具を使う「指」にフォーカスし、「運動」「感覚」「伝達」を総合的に捉える手段として、指の先にダイレクトにサックとして嵌めることで対象物と指の間にある道具をミニマム化することを試みた。
ハサミのミニマム化では、ジャンケンの「チョキ」のカタチで、ダイレクトに指で紙を切る行為に繋げ、感覚器官としてのフィードバックによって、より繊細に切りたい形状を伝達できないかという試みとなり、スティック糊では、指で紙を挟むことで台が無くとも安定的に糊付けができる利便性を実現している。描くという行為では、子供の頃に蝋石を使い道路に自由に落書きした体験を彷彿させ、測る行為では、人のスケールを意識することで「モノのサイズ」をより身近な存在に変えてくれる。
検証というプロセスを得ることが出来なかった点は残念だが、身近な道具の中に「指の復権」を試み、子供から大人まで楽しめる…ハンディキャップを持つユーザーにもひとつの可能性を提示したアイデアは、ユニークだが共感出来る。筆者はデザインを提示する上で「世界観」がとても重要と考えているが、展示の方法も彼女らしいオリジナリティーのある垂れ幕の様なグラフィックで独自性を出してくれた。

玉置みづほ:センチメモア


卒展の最終日前に当たる2月23日に実施されたJIDA(日本工業デザイン協会)中部ブロックの次世代育成事業による卒制訪問での彼女のプレゼンは中々良かった。普段の「あ〜もうだめだ〜」的な悲壮な姿からは想像出来ないくらい、しっかりと自分のアイデアを伝える姿は頼もしかった。彼女は当初から、水やアクリルを使った透明感のある表現や素材に興味があり、一方で「花言葉」によるメッセージを使ったギフトに興味を持っていた。
商品の購入動機として「機能」「価格」といった【理性】と、「見た目」「感情」といった【情緒】のバランスが作用しているとし、「理性と情緒のバランスで人はモノを買う」という仮説の中で、「人のためにモノを買う」場面に於ける【情緒】として「贈り手の想いや気持ち」をしっかり伝えることの大切さを訴えたいと感じていた様だ。ダイレクトに伝えることが苦手な日本人の「照れ」「遠慮」「慎み深さ」などと絡め、贈って直ぐでは無く一定時間を経て相手に真意が届く「タイムラグ」によるギフトの演出を模索した。「贈り手の想いが相手に届くまでの時間を楽しむ」という体験が双方にとっての価値となり、「メッセージを発見した時の驚きや喜び」が、受け手にとっての付加価値になる様なコミュニケーションとしての視点からギフトを考察している。件(くだん)のプレゼンで感心したのは、説明の中での「きちんと言葉で相手に想いを伝えることが大切な時代…云々、○○であるべきだと思う」といった一連の台詞。一般的には「こういうことを調べたら、こんなことが分かったので、この様にした」というプレゼンが多い。これは…作者の個人的な意見では無く客観的なエビデンスがあるぞ…というアピールであり提案に説得力を持たせる手段でもある。確かにリサーチの末に得た答えではあり、視点や切り口にはオリジナリティがあるかも知れないが、リサーチの結果と対策はオートマチックにひとつの答えが導き出されるものでは無く、そこには多くの選択肢や可能性がある。何故それを選択したのか…には「ビジョン」が必要で、彼女は「○○であることが、望ましい社会であり、そうあるべきだと考えている」ことを自分の「ビジョン」として口にした。その口調は、プレゼン時の手の振るえとは裏腹に、実に頼もしく、実にカッコ良かった。


話が逸れたが、作品は花キューピット式に、贈り手が花言葉に込めた想いから花を選びメッセージと合わせ申し込む。受け手は、水溶紙に包まれたギフトに水を入れ24時間待つと選ばれた花が姿を現し、合わせて届けられたQRコードからメッセージを受け取る…というビジネスモデルの提案とも言える。当初の「水やガラスの透明感」を死守し、紆余曲折はあったものの「美しさ」を彼女の世界観なりに表現できたと思う。筒型の形状やサイズ感、中に入れる花のデフォルメと表現手法、タイムラグを生む為のアイデアや素材の模索など、シンプルなアウトプットの中にも、ちゃんと多くのトライ&エラーが詰め込まれている。中でも、美術館では展示に「水」を使用することが許されていない為、展示の方法については苦労した。最終的には透明レジンで固め、水のレンズ効果に近いモノを再現したが、搬入の間際の間際まで失敗を繰り返し、教員をハラハラさせてくれた。試行錯誤の末に辿り着いた、細いワイヤーにマニキュアの膜を張る花の表現は実に繊細で工芸品としても見応えがある。LEDの照明を入れるアイデアはインテリアとしての飾る魅力を増し、断面がグリーンに見える透明アクリルを使った天板のレイアウトなどにも拘り、彼女の世界観を堪能させてくれた。冒頭の岩崎と並んで、教員達を最後までスリル満点の境地に追い込んだ犯人のひとりである。

西尾和真:見る、ミル


桃美会賞、JIDA最優秀賞、おめでとう。
4年前のオープンキャンパスで彼と始めて出会った時、車が好きだ…という話をしてくれた。実際に車の知識も豊富で、好きな車についての講釈も持っていた。筆者は自動車メーカー出身なので「車好き」と聞いただけで肩入れしてしまう傾向を否めないが、彼の魅力は「好きなことに対する知識の豊富さ」だ。今回は、コーヒーという彼を虜にした…もうひとつのお話。デザインを進めるプロジェクトチームの中で、そのプロジェクトに一番詳しいのは誰か?正解のひとつは「担当者」だ。勿論、統括するマネージャーは全体を把握し、関連する情報量も多いが、大局的にプロジェクトを推進していくための判断をすることが使命であり、担当者の持つ情報とは詳細の種類が異なる。設計者とミリ単位でカタチの攻防戦を繰り広げているのは担当者であり、問題の原因、制約、解決手段のオプションは担当者の手の内にある。問題無くデザインの主張が通っていく調整を手際良く担当者が行えば、問題点はマネージャーの所まで上がって来ないことさえある。4年生には教員を4人充てているが、それぞれに専門分野もキャリアも異なる。お陰で広い視野で学生の選んだテーマを捉えることが出来ると考えているが、当然、自分の専門分野では無い場合もある。経験と知識から最善と考える助言や情報を伝えるが、専門分野では無いテーマの場合は教員もまた一緒に学びながら課題を進めていくことも必要となる。是非、学生には「教員は生きてきた年数分だけ色々なことを知っているかも知れないが、こと今回の○○に関しては、これだけ調べた自分の方が詳しいはずだ。反論するならしてみろ」くらいの意気込みで向かってきて欲しい。普段から優しいキャラクターの彼の強さは、この好きなことに対するエネルギーの掛け方が半端ないこと。こちらが疑問に感じることについては、リサーチの成果として殆どのことに自分なりの回答を持っていると感じさせる信頼感があった。今回、取り組んだコーヒーミルについても、論文に詳細をまとめてくれたが、「好きなのね…」とコーヒーに嫉妬する程に入れあげる様子が伝わってくる。


さて作品は、プラネタリーギアと呼ばれる変速ギアを用いることで短時間で手挽きによる効率的なミリングを実現するミルの提案。従来のミリングの歯の仕組みが持つメリット、デメリットを分析し、新たな機構をビジュアルにも活かし、その存在が、ただ豆を挽く道具から一緒に時間を過ごすパートナー達とのコミュニケーションツールとして機能するところまでをイメージしている。中心のギアの周りを遊星ギアが自転しながら回転する動きは見ていても美しく、隙間をコントロールすることで粒度の調整をする仕組みもフォローしている。論文では、最終の提案に繋がる物語部分にもっと丁寧な追い込みが欲しかったが、色々な機器の解体、コンセプトの広がり、アイデアスケッチ、原理モデル、機構モデル、サイズ検証モデル、材料検討、展示計画…どれを取っても相当な物量をこなし、拘りを見せてくれた点を高く評価した。最終モデルでは、本当にこれで豆がイメージ通りに挽けるのか、また商品としての「美しさ」にまで辿り着けたか…という疑問は残ったが「研究」としての取り組みという点では、この1年間の頑張りは2つの賞を持って行くに値するものだったと感じる。(彼と一緒にモビリティーを研究する夢は叶わなかったが、クルマの変速機にも使われているプラネタリーギアも出てきたので許すことにしよう)
彼もまた、日程管理を含めた自己管理がしっかりできた学生の1人で、卒展の搬入時には自分の荷物の開梱を後回しに全体のセッティングに走り回り、最後は隣のコースの照明の調整までやってのけた。「余力を持って全体を見る」ことは時間的な余裕だけでは無く、気配りや周囲への配慮といった気持ちの持ち方に拠ることが多く、出来そうで難しい能力であり、社会に出てからも可愛がられる素養のひとつである。いつまでも、その優しい心根を維持して欲しい。

野呂翔子:旬ぐらし材料室


コース優秀賞、おめでとう。
「疑わしきは、はみ出せ」私が企業に就職した頃に尊敬するチームリーダーに言われた言葉。「新しいことを思い付いたが、これは自分の職制とは少し違う…自分がやるべきかどうかグレーゾーンだ…そう思ったら、迷わずお前がやれ! それがお前の知見を広げプレゼンスを上げる。大変かも知れないが、そこで得た経験は会社では無く、お前のものだ」と言われた。今やデザインの分野を明快に線引きすることは出来ず、様々な技術やトレンド、分野を総合的に横断しながら、大いにはみ出していくことが活路を開く大切な視点である。彼女のアウトプットは、プロダクトデザインの分野から見ると物足りなさを感じるかも知れない。物理的な立体としての商材とは言えず、スタイリングや機能を検証出来る商品でも無い「ビジネスモデル」の提案であり、ブランディングのベースとなるコンセプトの提示だと言える。作品は一言で言うと「(本当に美味しい)野菜を食べていない人に「旬野菜」を食べるキッカケを提供する為の実験室」…といったところか。個人的には「野菜のDIY」という彼女の言葉が分かりやすく気に入った。ユーザーが取りたい野菜からメニューを模索し、自らが調理し、カトラリーや食器を選び、その場で食べることができるセルフサービス型レストランという仕組みで、その季節の旬の野菜を知ってもらい、味を堪能してもらうことで本当の野菜の美味しさを伝えたい…素晴らしアイデアだ。レビューの中では、レシピや創作料理をSNSに乗せるなど、新しい野菜の訴求方法にも目が向けられていた。実家が農家であることを今回の卒業制作で初めて知ったが、ひとり暮らしを始めるまで実家の美味しい野菜しか食べてこなかった作者が、ひとり暮らしを始めて、スーパーで買う野菜の味の違いに驚いたという実体験からスタートしている。彼女の論文は(筆者にとって)実に勉強になった。農業に対するイメージや考え方も変わり、彼女がリサーチした内容の面白さ、自分の農業に対する考え方、まとめの上手さなど素晴らしかった。「旬で食べる」ことが少なくなった背景には、季節を問わず豊富に野菜を収穫することが出来る技術や化学肥料などの存在が想像出来るが、必ずしも化学肥料を用いた農法が妥協の産物な訳でも無く、「有機農法」や「無農薬栽培」といった手法が無条件に素晴らしい訳でも無いこと、そして「手間が掛かり高価」「作り手が少なく高価」といったイメージによる先入観もまた間違いであることを知ることができた。従来のプロダクトの路線をはみ出そうとする彼女の取り組みは魅力的だった。
最終審査の後に行った「桃美会賞」を決める担当教員達との協議の中で、最後まで上段の西尾と迷った。昨年度も加藤愛理が「ゆるふわタウン」というビジネスモデルの提案を行ったが、加藤の場合は街並みのデザインからキャラクターのフィギュアデザイン、SNS用のスタンプやプロモーションビデオまですべてをオリジナルの創作物でまとめたのに対し、野呂の作品は本人のプレゼンテーションでも語られた通り、コーディネーションの範囲に留まった点で、最終的には西尾に軍配を上げる結果となった。中間審査の時には、野菜のカタチを模した立体的なメニューが提示され、面白くなる予感を感じさせたが、グラフィック的なアイテムのまとめに腐心する中で、以降のプロダクトアイテムへの展開には手が回らなかったと感じた。
彼女の素晴らしい点は、圧倒的な自己管理能力とグラフィックセンスを含めた表現力、ストイックに自分の目指す方向を見据えた行動力、今回課した論文にもみられた筆力…など数え切れない。こういう…放っておいてもきちんと出来る学生は、ある意味、手が掛からず楽…だが、反面、彼女の仕事振りに甘えていたかも知れない。経過報告での進捗と黙々と作業をこなす姿に安堵した点で、申し訳ないことをしたと反省。どういう落とし所に持って行くべきかが難しいテーマにチャレンジしたが、展示ではその場所の世界観を共有するアイデア、空間を意識したレイアウト、映像を取り入れた表現などが面白かった。

林将輝:コドモのツクエ


全体ビデオの編集、御苦労様。コースの紹介ビデオ以来、動画は林君…の様な暗黙知で、彼に負担が掛かってしまったが、最終審査や搬入の様子など直前の映像まで混ぜて編集をしてくれたことで、この1年間を振り返ることができた。
さて、今回の彼の作品は、その見せ方のユニークさに大きなポイントがある。作品自体は、子供の視線で見える世界と大人のそれを対比させ、テーブルの上を「大人の世界」、テーブルの下を「子供の世界」と定義し、子供の目の高さでくり広げられる日常を冒険心たっぷりに切り出そうという試み。テーブルとしての機能は、この際少し優先度を下げ、(おそらく誰もが持っている)4本足のテーブルの下に入り込んだ経験を思い出して頂こう。テーブルの下が居心地の良い自分だけの空間だったことにワクワクした記憶をお持ちの方もいるだろう。空想の基地であり、落ち着く砦だったテーブルの下には枝の様な造形が広がり、森の中を探検するトム・ソーヤの気分だ。木漏れ日を想定し、天板の一部には穴が空けられている。展示では、大人目線では、テーブルの下に潜り込むことが出来ない為、彼はひとまわり大きな箱を設置し、テーブル下からの点光源で、箱の内側にテーブル下の世界を影として映しだした。身長の高い人には少し屈む姿勢を強要するが、あたかも子供に戻ってテーブルの下に入り込んだ気分にさせてくれる演出にやられた。テーブルのカタチそのものがプロダクトデザインで言うところの成果物だが、彼のアイデアは、その見せ方の重要性を教えてくれる。木の枝にぶら下がったフォークやぬいぐるみの影を発見した時に、思わず「どうなっているのか?」とテーブルの下を覗き込んでしまう自分に少し嬉しくなる。木の枝をモチーフにするならば、従来の四角に縛られず自由な形状をテーブルに与えても良かったのでは…とのコメントも出たが、影を映す箱の中がテーブルの下を模していることを明快にするには、四角の方が良かったのかも知れない。箱の四隅に丁度テーブルの脚の影が映る様に縦横比を合わせ、見学者の「視点」を操る面白い仕掛けが完成した。
彼は当初、現状の「子供向け商品」に対する疑問からスタートし、家具に展開したいという思いはブレずに進めることができたが、当初は「子供向け商品も大人が作っている…真に子供目線(欲求)で作られたものが無い」という根拠が曖昧で検証が難しい仮説を立て、問題点をどう捉え、どう展開していくのか見え辛い時期が続いた。幼稚園にリサーチに行くものの、林君の視点と作為が入った瞬間に、やはりそれは「真の子供の欲求」で作られたものになるのかどうかが分からなくなる自己撞着が起こるためで、子供自身がデザイン、設計することが出来ない以上、何を以て「真の子供目線」と定義するかの焦点が定まらず苦労した。ある時、自身の子供の頃の体験から、テーブルや椅子の下に潜り込んだ時に見た天板や座面の裏の始末が安っぽく落胆した記憶を根拠に、子供をガッカリさせない「裏側の世界」に糸口を見つけた様だ。そこから発展し「裏側」では無く「子供にとっての表側」を意識することで、付加価値になり得るヒントを探り当てた。裏側を綺麗に仕上げるだけならコストを掛ければ実現するが、問題解決では無く問題提起として、それに見合う付加価値を子供の目線から見出した…文字通り「着眼点」に感心した。子供が「ごっこ」を経験する舞台装置としては贅沢な設えだ。一緒に遊ぶハックルベリーも見つかるに違いない。JIDAのイベントで色々な美術系大学の卒展を回っていると、最近、子ども向けの家具や玩具、衣類などに興味を持つ学生が目に付く。少子化の中、子どもに対する愛おしさや大切にしたい…そんな思いが強い時代なのか、誰もが経験した子ども時代を振り返りたくなる程に大変な毎日を実感しているのかは別にして、彼の穏やかで優しいキャラクターらしい、童心に返ることができる素敵な作品だった。

堀田蒼:DESSIN


彼は学部の卒業制作展でも白黒専用のカメラを提案した。例年、実施しているJIDAの卒展訪問時のプレゼンでは、前回の作品(その作品で彼はJIDAの最優秀賞を受賞)を覚えている方もおられた。普段は寡黙だが、熱心で真面目なキャラクターで、コツコツ丁寧な仕事をする。スケッチテクニックもレベルが高く、工業デザインの王道を行く学生だ。学部でやり残したテーマを継続して研究したいとの想いで大学院進学を決め、公約通りモノクロ専用カメラ「DESSIN Ⅱ」とも言うべき作品に取り組んだ。「DESSIN Ⅰ」が、直線を基調としたクールなボディデザインであったのに対し、今回はやや丸味を帯びた優しいスタイルに変化した。2年の時間が流れ、彼の思うところにも変化があったのかも知れないが、前回の無機質でメカニカルなイメージによるマニアックなユーザーの心をくすぐる意匠に対して、緩やかなカーブや張りのある面処理は洗練度が上がり、よりユーザーの間口を広げるデザインに生まれ変わった。その点では、前回はややハイスタイルに目が行きがちな提案であったが、今回は、このカメラを使用した表現のバリエーションや楽しみ方にも言及し、ライフスタイルの提案にまで研究の幅を拡げた点に、その進化を感じる。「モノからコト」と言われ久しいが、商品を通して得ることが出来る体験に価値を見出すアプローチは益々大切になる。

2年前の卒制作品「DESSIN」2016年度

ひとつ目のポイントは「出力」。最近は誰でもカメラを持ち歩く(スマホに付いている)時代、画像は撮り溜めていくばかりで、出力する機会もないまま「いつでも全てを持ち歩き、見たい時に見る」或いは○○映えを意図し「SNSにアップする」ことが画像の楽しみ方。彼は、敢えて物理的な紙媒体…ロールの印画紙に連続で出力できることを前提に、レビューのライトテーブルモードで画像の順番を入れ替える機能を想定した。撮り溜めたデータの順番を編集する機能は、既存の商品でも、ありそうで無いものだ。順番を変えることでストーリーが変わり、その組み立て自体も撮影者の表現の一部に取り入れる試みである。プリンターをコンパクトに収める為に採用したのが医療用感熱紙。MR検査などに使用される感熱紙はラティチュード(明暗の表現幅)が広く、感熱温度が高いため、常温保管でも焼けてくることが無い特性を持っている。一連の流れを物語の様に表現することはモニター画面では難しく、新しい表現のひとつになるかも知れない。2つ目のポイントは、専用のギャラリーサイトによる、作品の展示システム。ピンタレストやインスタグラムは、もはや画像共有の標準言語と化しているが、SNSを活用したモノクローム専用のギャラリーによる作品を集めた情報共有システムにより、モノクローム写真で難しい各種パラメータやフィルターワークの情報を交換・共有できるスキルアップの側面もカバーしている。3つ目は、インターフェース。いくつものパラメータをより直感的に把握しやすい様に、各数値をグラフの様な図形で表示することで、数値のバランスをビジュアルで感じさせる試み。数値の羅列よりもイメージとして把握する方が有効性が高いのではないかという仮説に基づく。モニターやファインダーもモノクローム表示される前提で、ファインダーを覗かない方の裸眼で実際の景色を確認出来る様に上部がカットアウェイされたスタイルは「DESSIN Ⅰ」から引き継がれた。「インスタ映え」が2017年の流行語大賞となったが、私たちは毎日の暮らしの中で…友人に共感してもらうことを目的に景色を四角く切り取る視点で日常を見る時代になった。表現のひとつとして様々な加工が出来るアプリなども人気だが、色の情報を取り除くことで見えてくるシンプルな世界やダイナミズム、想像力を掻き立てられるワクワク感は改めて写真の魅力として若い世代にも人気が出そうだ。彼らにとって白黒はレトロでは無く新鮮な表現手段に見えているのかも知れない。

展示期間が終了し、来場者もいなくなった会場にて

彼らのモチベーションは、一体何だろう?
「やりたい」からやるのか「やらなくてはいけない」からやるのか…。「自分はこの程度だと思われたくない」という見栄が原動力になることもある。「欲」であれ「義務」であれ「見栄」であれ、学生のテンションは見かけからは分かりづらい時もある。「やらなくてはいけない」から?…と感じるのは、時折直面する「諦めの良さ」。良く言えばフレキシブル、多様な考えに寄り添っていけるとも言えるが、これで無いとダメだという思いは、確信が持ちにくい時代には、難しいマインドなのか? 単に時間の管理が上手く行かずに妥協せざるを得ないのか?
誰しも「失敗」は望まない。「失敗」は時間と予算を圧迫することに直結する為、せずに済むなら避けて通りたい…という思いと「研究」という探求行為とは相容れない。大学は研究機関であり、自分のアイデアを打ち砕かれてこそ経験値が上がっていく。またそれが大いに許され…推奨される現場でありたい。その為にも余裕のある日程管理が必要で効率的な作業が求められる。消耗品が多い美大生にはバイトの時間も必要で大変だとは思うが、資材の調達や不測の事態への備え、バックアップできる時間や善後策など、総合的にプロジェクトを管理する絶好のチャンスでもある。帳尻を合わせて出来れば良いのでは無い…もちろんアウトプットとしての制作物も大切だが、このセルフマネージメントを学んでいると実感することができれば、彼らはもっと強くなれる。

散らかったアトリエも学生がいる間は活気に満ちて、ひとつのゴミも人が生きている証に見えたが、搬入が終わり学生の姿の無いアトリエは、ただのゴミ屋敷。楽しいことも苦しいことも共有してきたであろう学生達がそこにいた…と思うだけで、もう4年生ロス症候群が始まりかける。本学に着任して丸5年になるが、この5年間で最もスケジュールが遅延した学年だった分、強く印象に残る学年でもあった。
3月1日、今日は青空が広がる春らしい穏やかで気持ちの良い一日。彼らの卒業式の日も今日の様な気持ちの良い晴天であることを心から祈っている。

プロダクトデザイン 金澤

卒展始まりました!

現実と仮想との「距離感」をテーマとしたプロダクト

岩崎希美:コモレビの巣

人間が癒されると感じるソファ

加藤香奈:マルマル

言葉と手、モノの密接な関係の考察

神林さやか:指道具

花言葉を使用したギフトによるコミュニケーション

玉置みづほ:センチメモア

コーヒーミルのデザイン

西尾和真:見る、ミル

野菜の食文化を見直す為のカルチャースペースの構築

野呂翔子:旬ぐらし材料室

コドモ目線の家具デザイン

林将輝:コドモのツクエ

白黒専用カメラ、感熱型出力機による、写真の新しい表現と楽しみ方の提案

堀田蒼(大学院):DESSIN

コース初試みの論文集

脚をお運び頂ければ幸いです。

第26回 名古屋造形大学卒展 第15回 大学院修了展
日程:2.19 Tue – 24 Sun 10:00 – 18:00(22 Fri は20:00まで、最終日24 Sun は17:00まで)
会場:愛知県美術館ギャラリー A 室 – I 室(愛知芸術文化センター8階)

◎名古屋造形大学 卒展記念公開講座
「デザインからデザインまで」 (要申込)
グラフィックデザイナー 廣村正彰
2.22 Fri 18:30 開演 (18:00 開場)
会場:アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)

https://www.nzu.ac.jp/gex/2019/

◎2月23日(土) 卒展見学プログラム

対象:高校生限定
場所:愛知県美術館ギャラリー
時間:13:00-16:30

卒展ってどうやって見たらいいかわからない…
作品・作者について知りたい!
大学生ってどんな作品を作ってるの?
…そんな疑問を持つあなたにオススメです。
卒展を見学しながら、名古屋造形大学について知れちゃいます!
13:00までにお越しください。
こちらは事前申込み制のイベントとなります。
下記より申込をお願いします。

https://www.nzu.ac.jp/exam_info/oc/

デザイン女子 No.1 続報!

2日目は、部門賞のプレゼンテーションと審議です。

昨日「特別賞」に輝いた関谷さんは、強豪揃いの力作の中、ファイナリストに残り、見事「No.2」に輝きました! パチパチパチ。

No2 の文字が誇らしい…この1年間、ずっと見てきたせいか、ホントにこの商品がある様な気がしてきた

建築・インテリア・プロダクトの異種格闘技戦さながらの激戦の末、彼女の4年間の集大成として取り組んだ「neiro」は多くの人に見てもらうことができ、たくさんのコメントや共感を得たようです。
No.1 は、インテリア分野の作品ですので、実質プロダクトのトップと呼んで良いと思います。

審査修了後。出し切った…伝えたいことは伝えたので悔いは無い…とのコメント。 とても素敵な笑顔!

大学生活の締めくくりとして素晴らしい成果だと思います。本当に最後までよく頑張った!
おめでとう (ToT)/

PD 改め LD(ライフデザイン)金澤

デザイン女子No.1で、またまた快挙!

おひさしぶりです!

今や、デザ女の常連校となっている名古屋造形大学のプロダクトデザイン(今年からライフデザイン)。
毎年、卒制の中からエントリーしていますが、今年は関谷祥子さんの「neiro」が、見事特別賞を受賞!
ファイナリストは、彼女以外、全員建築部門…てことはなにか…プロダクト部門でトップってことぢゃない?!

「neiro」については、前回のブログ「卒制一気レビュー」を御参照下さい

これで、昨年の永田さんの「irodori」(プロダクト部門No.1)、一昨年の加治さんの「万華筐」(オーディエンス賞)、その前々年の中間さんの「patan」(デザ女No.1)に続く、快挙です。

卒展で「neiro」は、JIDA中部ブロック最優秀賞と学内優秀賞をW受賞していますので、これで3冠ですね(^^)/
28日も部門賞のプレゼンです。 連日で大変だと思うけど、ガンバッて!!

PD…改め LD(Life Design)
金澤

卒展2017 一気に御紹介しまーす!

今年もこの時期がやってきました。

創立50周年を迎えた今年度、初めて学内での開催となった第25回卒業制作展では、9名の4年生がプロダクトデザインコースから巣立ちます。

看板

会場全体

美術館に比べ、ひとり当たりの面積もゆったり取ることができ、美術館では展示出来ない、水物や生もの、音を出したり物販をしたり…各コースともに趣向を凝らした展示が面白い卒展となりました。地の利が悪いことと毎回アトリエを片付ける労力を思うと、学生が可哀想な側面や大変さはありますが、学内での卒展自体は悪く無いと感じます。 取り分けプロダクトデザインのフィールドは美術館の隔離された権威や風格は必要とせず、生活の延長線上にあると感じて貰える方が良いかも知れませんね。

例年通り、今年も学籍番号順に一気に御紹介します。

 

【ゆるふわタウン】加藤愛理

加藤3

桃美会賞、JIDA優秀賞おめでとう。

ネット上の仮想空間に広がる街「ゆるふわタウン」。 動物をモチーフにした、そこに住む住人達は色々な個性を持ち様々な仕事をしている。アバターとして入り込んだユーザーが体験する新しい「商空間」の提案。

スポンサーになる企業がこの架空の街に出店し、アバターであるユーザーが買い物や住人達とのコミュニケーション、或いは、同じ様にこの街を訪れた他のアバター(ユーザー)と情報交換などをすることができ、「ゆるふわタウン」で手に入れたポイントなどが、現実の店舗でも使えるサービスを提供する仕組み。

1990年、富士通がハビタットという、チャットを中心とした仮想現実空間を提案したことがあったが、eコマースをよりリアルな体験型テーマパークの様にすることで、別の人格を楽しんだり、新たな出会いを含めたネットワークの構築に活用するという、SNS+EC+RPG を提案しようとしている。

彼女は「ゆるふわタウン」の住人達であるキャラクターのLINEスタンプを実際に販売し、人気の動向を確認したり、キャラクター設定の精度を上げたり…と結構、ロジカルな検証を交えながら、それぞれの愛くるしいキャラクターを立体化した。

加藤1

彼女は1年生の時から一貫してこういったキャラクターデザインに関心を持ち、卒制では加藤ワールド全開の楽しい作品となった。「モノからコト」と言われて久しく、商品がサービスやコンテンツに変わっていく時代、必ずしも物品に帰結することなく自由に企画を考え自分の好きな世界をどうビジネスに乗せていくか…という視点は益々必要になる。 彼女の作品は一見とてもファンシーだが、彼女なりのビジネスとしての視点を掘り下げ、映像やノベリティー、キャラクターグッズなどにも可能性を求め、アートとデザインを橋渡しする自由な「モノ」「コト」の表現にチャレンジできたと思う。 従来のプロダクトの概念に縛られることなく、自由に企画を展開したアイデアとイメージを広げた点を高く評価したい。

 

【neiro】関谷祥子

関谷1

JIDA最優秀賞、コース内優秀賞おめでとう。

桃美会賞は逃したが、私の中では、この関谷と上述の加藤で迷った。 色を音に変える装置…という、新しい視点をどう商品に展開していくのか…早くからテーマは決まったが、その表現には紆余曲折があった。

スマホの登場で、今や誰もが旅行先や日常で手軽に写真を撮り、それをSNSなどで簡単に拡散することができる時代になった。彼女の提案は、専用のカメラで撮影した写真画像の色の要素を抽出し、帯状の色短冊を出力。この色帯を専用のプレイヤーに装着すると、独自のアルゴリズムで音に変換するというもので、景色の画像だけではなく、その体験に音楽を添えて想い出をステキに演出しようというもの。

展示を御覧になった日本画の濱田先生から「自分の作品(絵画)の音を聴いてみたい」とコメント頂き、「音を意識した絵づくり」という発想で景色やモノを見る習慣などが芽生えて来るかも知れないと感じた。「インスタ映え」という言葉が流行語の年間大賞になったが、私達は日常生活の一部を切り取る作業に、人に見せる前提で「映えるか?」という視点を高く意識する様になったと思う。表現の手段が変われば意識が変わり、新たな発見や見過ごしていたディテールがクロースアップされ、人の所作や視点が変わっていくのはデザインの仕事をする醍醐味のひとつだ。

留学先のバウハウス大学で出会ったアルディーノをベースに、今までのプロダクトデザインコースのアウトプットからは「ひと味」違うアプローチを見せてくれたことを評価したい。 IOTの先駆けの様にスマートスピーカーなど、身近な生活を彩る機器が登場しているが、この作品もそういった新しいライフスタイルや意識の変化を敏感に感じながら、程良い未来感とリアリティーで提案している点が良かったと思う。 バウハウス大学では「立体で『もの』を考える習慣」を身に付けた彼女は、沢山のスケッチに負けないくらい沢山のモデルの残骸を生み出したが、アイデアを直ぐにカタチにして検証するプロセスもとても良かった。

データー・ラムスのデザインにインスパイアされた彼女の嗜好は、スマートスピーカーなどに代表される昨今のIOT商品の中でも見劣りしない、美しいリアリティーと上手くマッチした。

関谷2

 

【モノとしての本】田中優帆

デジタルタブレットで本を読む時代。 まだまだページをめくる感覚が好きだったり、読了まで後どれくらい掛かるのかが分かる物理的な「本」が好きという方も多いだろう。 しかしながら、マンガと雑誌を除いた本を1ヶ月に読む冊数が「ゼロ」という人が33%と3人にひとりの割合に上ることが日本世論調査会が実施した調査で分かったそうだ。「若者の車離れ」と並んで「本離れ」の深刻さを裏付けた結果だ。原因を「スマートフォンやゲームに費やす時間が増えた」とする回答が73%を占め、読書時間がスマホなどに奪われているという。確かにインターネットで得られる情報で間に合い、一過性で旬を過ぎれば捨てていく雑誌などは、捨てる手間もいらないデジタルに置き換わっていくであろうし、重たい書籍の形態からはどんどん自由になっていくに違いない。  一方で、読書が自分にとって必要かを問うと「必要だ」(61%)「どちらかと言えば必要だ」(30%)の合計は91%になるという。

前置きが長くなったが、彼女の作品は改めて「モノとしての本」の価値を再定義したいというもの。色々なアイデアの中から今回は3つのアイデアをピックアップしモデル化した。大雑把に言うと「インタラクティブに本を楽しむ仕掛け」(各ページに「赤」を塗ることを誘発する本)、「寝る前の読書の心地よさを体験するカタチ」(畳むと枕に包まれる様な装丁を持った本)、「本に見えない立体物を形作るスタイル」(パフェのガラスコップのシルエットに収まるカード積層型の本)といった作品が展開された。

田中1

グラフィックの守備範囲とも言える書籍をプロダクトデザイナーの視点で見た時にどんな発展性が生まれるか…という切り口は興味深い。 単なる装丁に留まらず「本の自由なカタチ」に想いを馳せた点は良かったが、ターゲットやコスト、製法、流通など、デザインワークに必要な「製品」としての位置付けや、「商品」としての責任の取り方にまで準備が及ぶと更に良かった。

田中2

また「物理的な本の存在意義」「立体的な装丁」「ロマンチックな世界」という3つのキーワードが提示されたが、今回セレクトした3つのテーマに、もう一歩踏み込んだ関連性やシリーズとしてのテーマなど、ひとつの世界観を感じさせるアイデアがあっても良かった。

沢山の学外ネットワークを持つ彼女は、フリーペーパーの編集や、その流通などにも意欲的な活動をしており、グラフィックデザインの仕事にも強い関心を持っている。 展示もシンプルな垂れ幕式のバナーを吊り下げ、とかく平面的な展示になりがちなテーマを空間として見せるなど、センスの良さを感じさせてくれた。

 

【hide & seek】富田沙彩

コース内優秀賞おめでとう。

例年、数名が「ガッツリ木工」作業に取り組む。 彼女は、自分の趣味でもある手芸の作業場を発想の起点に、自由にアレンジ出来る収納棚を備えたローテーブルをテーマにした。 ユニット式の数種類のボックスを組み替えてアレンジするアイデアは、決して新しい物では無いが、タイトルにもある様に「見せる収納/隠す収納」という視点を加え、また、色々な趣味(彼女の場合は手芸)に特化したパーツを組み入れることでビジュアル的な新しさを見せる点を意識した。「hide」の部分では、ゴム紐を面を感じさせる程度に狭いピッチで張り、物を出し入れできる…さり気なく中に何が入っているかが分かる、パーシャルなものの見せ方としているのは、従来のオン/オフの「見せる収納/隠す収納」とは、ひと味違う…圧迫感の無い量感を感じさせることに成功している。ゴム紐にカードをピンナップするアレンジなども女性らしい楽しいアイデアだ。

富田

木工作業は、シンプルな形状ではあるが、丁寧な工作作業を経て、寸法精度も良好な出来だ。 オイルステインでシックにまとまった表面処理は、決して外連味は無いが、嫌味のないシンプルで美しい仕上がりになった。 デザイナーにとって仕上がりのクオリティーに拘ることは大切で、見る者を安心させるその完成度は評価に値する。 前に座ってみると…座卓の高さなので、正座や胡座の姿勢で丁度良い作業場となるが、立ったり座ったりが容易な椅子の世界とは異なり、もしかしたら趣味の世界に集中・没頭しやすい体勢なのかも知れない…とローテーブルを再認識した。 落ち着いた色調のお陰で、居心地の良さを感じさせてくれるこの作品は…1坪くらいの狭いスペースに入れ、時に背を壁に凭れさせながら、趣味の時間(私の場合はミニカー作り)を楽しみたくなる出来栄えだ。

 

【素材による和の表現】長田果穂

コース内優秀賞おめでとう。

いつも穏やかなキャラクターの彼女は、デザイナーには少し優しすぎる個性だと感じてきた。 争うことを好まず、1年生の時から、いつもひとりアトリエに残りコツコツと真摯に課題に取り組む姿が印象的だった。 プライバシーにも触れるので詳細は割愛するが、大学に入学してから幾つかの辛い出来事を乗り越え、決して派手では無いが直向きに作業を進めてきた。

作品の評価ではなく、人物の説明は本来このレビューの趣旨ではないが、彼女の持つ優しい個性が、この作品にとてもよく反映されていると感じる。 テーマは「モノ」が使われていない時の存在の姿…とでも言うべき切り口で、トレイとコースターといった日常の道具が非使用時に壁に設けられたジグザグ型のホルダーに収納され、間接照明として機能するという作品。 使用しない「モノ」を単に不要なものと位置付けることなく、小奇麗に片付けたり飾ったりすることに主眼を置いた「見せる収納」とも異なり、照明という別の機能のモノに変えてしまう…というところがポイントのひとつ。

長田

一方で彼女は「和」の表現に関心があり、当初から和紙や竹といった素材からのアプローチを積み重ねてきた。最終的には竹では無いが木目を表面に出した質感でシンプルな形状と合わせ、和室にも洋室にも違和感の無い家具…器具となった。 トレイにも和紙の様なテクスチュアと、日本の四季をテーマにしたUV印刷によるグラフィックが施され、滑り止めの機能だけでは無く、触った感触にも一工夫されている点は、CMF(色・素材・仕上げ)の視点からも合目的である。

山のシルエットに沈む夕日の美しさは、おそらく誰にも経験のある原風景のひとつだと思うが、彼女が表現に選んだモチーフに、どこか優しくホッとする…穏やかな心遣いを感じるのは、やはり作者の個性ではないかと思う。

 

【各スポーツに特化したアイウエアの提案】中根諒太

アップルウォッチが世に出て「ウェアラブル」という言葉も浸透し、他にも腕時計が心拍数や歩数、運動量や睡眠時間を計測し健康状態をビジュアルにする機能などを持ち始めている。 名探偵コナンも眼鏡型追跡装置で数々の事件を解決するが、彼が取り組んだテーマは、そんなアイウエア型の情報端末装置。

今回は特にスポーツを楽しむ人達をターゲットに、どんな機能があるべきかを考察し、未来のスポーツの楽しみ方を提案しようとしている。 彼なりに様々な競技を「対戦競技と自分と闘う競技」「激しい運動量を伴う競技と比較的移動エリアが小さい競技」の座標軸でカテゴライズし、「ジョギング」「ゴルフ」「テニス」「エアーホッケー」の4つの種目を選択。 それぞれの特性に合わせたアイウエアのモデルを検討したが、4つの象限とセレクトされた競技のマッチングには些かしっくり来ない分類分けを感じさせた。

「ジョギング」では、心拍数などの体調管理に加え、個人の記録やペースなどをモニタリングすることで、適切な運動量を示唆し、「ゴルフ」では、風向きや風速、カップまでの距離情報、ライン取り、アンジュレーションを格子柄の歪みで表現した画面などを見ることができる。

また「テニス」では、相手や自分の動きを録画することで、試合後の振り返りやフォームのチェックなどもでき、「エアーホッケー」では、画像情報だけでは無く音もその演出効果に加えることで、それぞれに「運動の管理」「練習の効率化」「技術の向上」「エンターテイメント要素の追加」など表示の目的によって、視覚情報の表現がアレンジされる。

中根

モデルは、データ作成後、3Dプリンターで出力し、細部の仕上げ後、塗装…というプロセスで作られたが、「メガネ」という基本形状(エアホッケーのみはヘッドセット型だが)がある故に、4つのモデルは一見類似している。 上述の狙いや機能の表現に合わせ、外観の特徴を明快に棲み分けることができれば、もっと良かった。 むしろユーザーが装着している時に得られる情報に大きな差と特徴があるのなら、アイウエアの外観意匠だけでは無く、ユーザーが見ているインターフェースのデザインに、もっと時間を割いても良かった。

 

【X】日沖翔一

デザイナーが…「見たことの無いカタチ」…に直面した時に見せる反応は、大きく分けると「なんだこりゃ?」か「やられた!」の2種類ではないかと思う。 更に彼の作品は9割方が前者ではないかと推察する。 前者は見る者の想像を超えており、後者は理解できるが自分には発想できなかった悔しさが混ざる。 更に前者には、良い「なんだこりゃ?」と悪い「なんだこりゃ?」が存在する。 良い〜は、好奇心をくすぐられ、それが何かを知りたくなり、悪い〜は、嘲笑とともに理解したい気持ちも失せていく。

彼の作品は、良い「なんだこりゃ?」だと思う。 その特異なカタチが意味する機構も使い方も目的もサイズも未知でありながら、何故かSF映画に登場するプロップの様な未来感と食虫植物の様なディテールに目が奪われ、これが何かを知りたくてウズウズする。

日沖

彼の解説か説明資料を見ずに、新しい時代のパーソナルモビリティー…という答えに辿り着くには、相当豊かな想像力が必要だが、下から覗き込んで4枚のプロペラを見た瞬間に、ドローン型の移動装置であることに気付き始め、解説パネルを見て、彼の自由な発想に感心することになる。正直、私は個人的にこういう世界が嫌いではない…というか好きである(^^)

浮上するので、水陸両用であり、オールテレインの一種であり、移動手段であり、ホバリング手段でもある。 彼は当初から、釣りなどの趣味の世界で活躍する水陸両用というキーワードを提示しており、最終的にもそんな場面で活躍するビジュアルを示しているが、セグウェイの様に体重移動で方向をコントロールすることも出来るそうで、趣味やスポーツの世界だけでは無く、災害救助や物資輸送など様々な用途が想像出来る。 ドバイではホバーバイクを未来の警察の白バイ代わりに実用化する研究をしているそうで、意外と近い未来にリアリティーのあるプロトタイプが登場するのかも知れない。

モデルは、MDFという木の繊維を固めた板をレーザーカッターで断面毎に切り出し積層するという手法で作成し、左右や上下の対称性をデータで制御することで、難しいカタチを上手くコントロールした。

モデルはハーフサイズで、展示ではスケール感が不明な為、人が使用しているシーンをビジュアルで追加することとしたが、展示台にハーフサイズの人のシルエットを立てるなど、モデルのサイズでスケール感を表現すれば良かった。

 

【EAGLE Fast】楊松

コース内優秀賞おめでとう。

クルマ業界にいた私にとって、やはり思い入れの強い作品。2040年にはヨーロッパの幾つかの国ではディーゼル車やガソリン車の販売が出来なくなり、電気自動車やハイブリッド車が主流となる時代、当然の如くスポーツカーにもエコや環境と共存する風景が求められる。Chevroletの「VOLT」(レンジエクステンダーなので純粋なEVでは無いが)では物足りないスポーティー感も、「テスラ」や BMWの「i8」(これもハイブリッド)では、スポーツを感じるイメージになってきた。 そもそも回転数の上昇と共にトルクが上がるレシプロエンジンと比べ、オン/オフの世界の電気自動車は、いきなりマックストルクを掛けることができる点で実はスポーツカーに向いている。加速の良さも異次元な体感をもたらしてくれる。

楊1

 

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空力について研究するには風洞試験室や特殊な計測機器が必要となる為、なかなか美術系の大学の設備ではハードルが高いが、一般的に空力上有利とされるセオリーを幾つか紹介し出来るだけパッケージングにも出鱈目な嘘の無いレイアウトをベースとした。 EVなので比較的レイアウトに自由度はある前提で、最も正圧が掛かる正面グリルから入る風を床下に流しダウンフォースを稼ぎ、ルーフ後端にはボルテックスジェネレータを設けリアスポイラーに風を当てるストーリー。 側面の風をボディーのセンターラインに近いところを通し後方に流す形状とする為に、乗員の左右のヒップポイントカップルを出来るだけ中央に寄せ、寝姿勢で乗るドライバーの足がフロントホイルハウスの内側に突っ込んでしまえるレイアウトとすることで、サイドビューでキャブフォワードなシルエットとした。 これにより、ボンネットフードとウインドシールドが極力「くの字」に折れない流れを作り、リアスポイラーまでの整流が必要なルーフ後端を長くとると同時に前進感のあるシルエットとなった。

モデルは硬質ウレタンで作成したが、彼は非常に作業が早く正確で、ディテールの始末には多少問題が残ったものの、大きなバランスや面出し、手際良く左右対称にする工程では、とても高いスキルを見せた。 クルマが大好きで、色々なクルマを日頃から見ている成果がきちんと出ていて感心した。

昨年の加藤君の様な箱形のクルマと異なり、自由なカーブをふんだんに交錯させるスポーツカーのモデリングは実に楽しい!(が、難しい) モデリングを進めるプロセスは企業時代に仲間達と微妙なカーブの巧拙を吟味した作業を彷彿させ、ワクワクするものだった。

 

【Corocoro shop】吉積里香

JIDAセントラル画材賞、おめでとう。

彼女は、実にストイックに計画的に作業を進めた学生のひとり。「Corocoro shop」は、フリーマーケッター用の移動式店舗。 美大生の中にはオリジナルのアクセサリーやカードを作り、クリエーターズ・マーケットに出品し販売している学生も多いが、彼女の作品はこういった出店をするクリエーター達に、持ち運びが可能で、組み立てると小洒落た店のファサードが出来上がる店舗什器のアイデア。

ネーミングの由来は、コロコロ引いて移動できるイメージと、棚などのレイアウトをコロコロと変化させることが出来る「様変わり」感を表現している。 画像で御覧頂いている店が…パーツを外して、畳んで、天板になっている箱に仕舞い込むと大型のスーツケースくらいの大きさに片付いてしまう。

彼女自身は、これまでクリエーターズ・マーケットに出店したことは無いそうで、今回の着手に当たって実際の出展者にヒアリングを行い、借りる場所のサイズや現状の問題点の抽出を早い段階からスタートさせた。 10月の芸祭で実際にこの作品のプロトタイプを使った模擬店を出店し、道具としての使い勝手を検証することを開発計画の中に位置付けた。 通常、10月はようやくモデル作成に着手する時期であるが、これを実行する為に計画的に作業を遂行した点は良かった。

最終形状に行き着くまでに9台の構成確認用のスケールモデルを作り、悲鳴をあげながらも、検証、修正を繰り返したプロセスは、地道だがデザイナーにとって極めて大切な道程を経験することができた。

モデルの材質は木の為、当初計画していた目標重量のハードルは高いものとなったが、白く塗装してしまうのであれば、製品では、脚などは樹脂で軽量化を図っても良く、持ち運びの利便性も更に向上しそうだ。

卒展でも、その使い勝手を検証する…という目的で、実際に自分で制作したアクセサリーやカードを作品に並べ、物販を実施。 これが、そこそこ売れるらしく…さぞや使い勝手は検証できたことと思う(^^)

 

さて、如何だったでしょうか?

今年の卒業生は、2014年度入学生で、私が転職し一緒に大学生活をスタートさせた学生達です。 私にしてみれば、1年生の頃からの様子を振り返ることが出来る初めての学年であり、彼らが卒業していくことを思うと一入の感慨もある。

…が、学生達は結構クールな様子だ。 毎年、その学年のカラーや特徴があり、同じ世代でもひと学年違うだけでクラスの雰囲気は異なるが、この学年は…ドライ…というか、卒展の当番枠以外は勿論、桃美会賞(コースから1名選出される優秀作品)が判明する初日にも学生が殆ど揃わない状況を見ていると、関心が無いのか、誰かが知り得れば即座にSNSで情報が手に入るから良いと思うのか…自身の作品にどれくらい執着や思い入れがあるのか、彼らは本当に完全燃焼したのかが、分からなくなる瞬間もある。(勿論、毎日の様に作品に張り付いている学生もいるが…)

…この4年間で、大切な何かをきちんと伝えることが出来なかったのだろうか?

 

PD 金澤

 

卒展プレビュー 第2弾

「音色」…音の大きさやピッチだけでは無く、日本人は「音の質」に彩(いろどり)を感じ、季節感や心情的なニュアンスをその言葉に乗せてきました。

「ねいろ」という言葉の響きにも、私たちは「優しさ」や「懐かしさ」「心地良さ」を届けてくれる特別な情緒を感じているのでは無いでしょうか?

 

今回ご紹介する関谷祥子さんの作品も従来には無い商品の企画です。

彼女が取り組んでいるのは、色を音に変換する装置を使って、体験を新しいスタイルで記録・記憶することで生活に「彩り」を添えようという提案です。
いったい、何処からそんな発想を思いつくのでしょうか?!

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スケッチの山…の、ほんの一部。 負けないくらいのモデルの残骸…の、ほんの一部…

彼女は、本学が実施している交換留学制度を利用し、ドイツのワイマール・バウハウス大学で学んだ経験を持っています。バウハウス大学での課題の中に、電子回路を使用した商品のコンセプトを考えるものがあり、彼女はそこでアルディーノという電子回路キットと出会います。様々なセンサーを組み合わせ、それらを制御するプログラムを書くことで、新しい装置を作り出すことができるというもの。

彼女が取り組んだのは、カラーセンサーを用い、色の周波数を信号に変え、周波数に合わせ異なる音程を発する装置。

今回の提案は、バウハウスで取り組んだテーマを更に発展させ、どういった商品に展開することができるかにチャレンジした成果です。

スマホの登場で、今や誰もが旅行先や日常で手軽に写真を撮り、それをSNSなどで簡単に拡散することができる時代になりました。
彼女の提案は、専用のカメラで撮影した写真画像の色の要素を抽出し、帯状の色短冊を出力。この色帯を専用のプレイヤーに装着すると、独自のアルゴリズムで音に変換するというもので、景色の画像だけではなく、その体験に音楽を添えて想い出をステキに演出しようというものです。

彼女はバウハウスで「もの(立体)で考える」習慣を身に付けてきた様で、早い段階からペーパーモックやNC切削加工を駆使し「アイデアの見える化」を積極的に進めてきました。

アイデアを直ぐに立体化・検証し、素早く改善点を洗い出すことはデザイン作業に於いて、とても大切なプロセスです。 アトリエにも設置している3Dプリンターやレーザー加工機は最終的なモデルを作る為にも使用しますが、効率的にPDCAを回す為にもどんどん活用して欲しいですね。

事実、彼女の作業台には、スタイリングを検討するスケッチやモックアップに加え、自分でハンダ付けした回路とそれを検証するテスター類、実動モデル化するためのLEDランプ回路やモーターなどが所狭しと並んでいます。

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この日の作業では、上部ターンテーブルの回転速度を決める為に、何Ωの抵抗値が適正かを検証していました

本学のメディアデザインコースなら、日常的に回路設計やプログラミングと接しているかも知れませんが、プロダクトデザインコースでは、ちょっとしたチャレンジでもあり、みんな興味津々で彼女の作業を見つめています。

今後はメディアデザインコースとの協働も強化し、こういったIOTの分野にも視野を広げ新しいモノづくりにもチャレンジしていきたいと考えています。

2月に入りモデルの全貌も見え、とても面白い作品になりそうです。 音と色を繋ぐ言葉…「音色」に込めた想い・・「neiro」。それがこの作品のステキな名前です。

2月10日〜18日@名古屋造形大学キャンパスで開催の卒業制作展に是非足をお運び下さい。

 

PD 金澤

 

 

卒業制作 進行中

ちょっとブログサボっちゃいました。

2月10日〜18日まで、第25回卒業制作展・修了展が、名古屋造形大学キャンパスにて開催されます。
この時期、学生達は制作に追われ、日夜、土日返上で取り組んでいるのではないでしょうか。
今年度、プロダクトデザインコースでは、9名の4年生が卒制に取り組んでいます。

毎年、個性豊かなメンバーがユニークな発想を披露してくれますが、そのプロセスをお見せしたことはあまり無かったので、制作過程をチラ見せしてみようかな…と思います。

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いきなり、動物の様な…人の様な…宇宙人の様な…フィギュアの制作過程です。

これって…どんなプロダクトなの…? 近年、幾つか毛色の変わった作品を制作する学生が出てきました。

使い勝手や利便性、機能性、軽量化などを製品として解決していく従来のプロダクトに加え、ビジネスの仕組みや新しいライフスタイルに寄り添った経験を提供する「企画」などを考えるパターンです。

加藤愛理さんの提案は、ネット上のバーチャルな空間に広がる街(「ゆるふわタウン」というそうです)の住人達と、アバターとして入り込んだ自分自身が体験する新しい「商空間」とでも言えば良いでしょうか?

スポンサーになる企業がこの架空の街に出店し、アバターであるユーザーが買い物や住人達とのコミュニケーション、或いは、同じ様にこの街を訪れた他のアバター(ユーザー)と情報交換などをすることができ、「ゆるふわタウン」で手に入れたポイントなどが、現実の店舗でも使えるサービスを提供する仕組みの提案です。

1990年、富士通がハビタットという、チャットを中心とした仮想現実空間を提案したことがありましたが、eコマースをよりリアルな体験型テーマパークの様にすることで、別の人格を楽しんだり、新たな出会いを含めたネットワークの構築に活用するという、SNS+EC+RPG を提案しようとしています。

彼女は「ゆるふわタウン」の住人達であるキャラクターのLINEスタンプを実際に販売し、人気の動向を確認したり、キャラクター設定の精度を上げたり…と結構、ロジカルなプロセスにも余念がありません。

「ゆるふわタウン」を紹介するプロモーションビデオも作り、展示ではその街並みや住人達を立体フィギュアで再現し、キャラクターグッズとしてのビジネス展開も想定したプレゼンテーションになる予定です。

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興味を持って下さった皆さん、是非、会場まで足をお運び頂ければと思います。

PD 金澤

デザイン女子No.1決定戦2018 スタートアップ!

いよいよデザイン女子No.1決定戦2018が、告知されました!

昨年度は、つい先日ブログでも御紹介した永田明里さんの「irodori」が、プロダクトデザイン部門の N0.1 、一昨年度は、卒業後から木工職人を目指し修行中の加治志生吏さんの「万華筐」がオーディエンス賞、2013年度には、中間彩乃さんの「Patan」が、グランプリに当たる「デザイン女子No.1」に輝いた、名古屋造形大学のプロダクトデザインコースとは、とても御縁のあるコンペティションです。

デザイン女子No1

中間彩乃さんの「Patan」

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加治志生吏さんの「万華筐」

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デザイン女子No.1 審査会場にて

 

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永田明里さんの「irodori」 左奥で立っているのが、作者の永田明里さん

各受賞作の解説はネットで御覧頂くとして、このコンペは全国の大学、短大などで建築、インテリア、プロダクトなどの空間や立体デザインを学んだ女子学生の卒業制作作品を対象としたもので、毎年100点近い応募作品の中から優れた作品に賞が与えられます。

著名なデザイナーや建築家などが審査に当たり、毎回、学生達の緊張しながらも素晴らしいプレゼンテーションを見ることができます。
今年も狙います!

名古屋造形大学のプロダクトデザイン(来年からライフデザイン)に御注目下さい!

PD 金澤

2016年度 卒制を振り返る

この時期は、4年生ロス症候群の直前で、いつも気持ちがザワザワします。
今年の卒業生は18名。私が赴任して以来最も多い人数で、バリエーションも広がり見応えのある展示になったのではないかと思います。
例年通り、卒業制作の作品について私自身の整理の為にも、全ての作品を紹介したいと思います。会場で御覧頂いた方々も、その背景にあった学生達の想いと頑張りを感じて頂ければと思います。
この1年間、頑張った学生達の顔を思い出しながら、振り返るこの時間も私には幸せなひとときです。

市川双葉 甘路
市川
JDN選抜・優秀賞おめでとう。
彼女の全力疾走感はハンパ無い。「甘路」は全国47都道府県の銘菓をピックアップし、それぞれの菓子に縁(ゆかり)のあるストーリーやイメージに合わせた小皿をデザインした作品。旅行に出かけた時のお土産として買い求める地方の味覚をより印象的に演出すると共に、味だけでは無く記念品として手元に残るアイテムを添えることでギフトとしての価値を高め、更にそれをシリーズ化することで、バリエーションを持ちながら統一感のあるコレクションアイテムとしての付加価値を加えた。ピックアップされた菓子をカタログ化し、地方を訪れる時の探す楽しみや、ギフトとして贈り贈られる親しい友人達に想いを馳せるコミュニケーションツールとして、地方の味覚を捉えている。従って訪れたその地で作りたてを味わう郷土料理では無く、お土産として手軽に持ち運ぶことが可能な菓子に注目し、旅行好きでスイート好きな若い世代は勿論、豊かな日本各地のスイーツを俯瞰し文化的に改めて認識する点で幅広い層をターゲットとして想定している。載せる菓子を引き立てると同時にシリーズ感を演出する為に、敢えて白い陶器という素材を中心に、シンプルな輪郭の中に表情豊かなレリーフやエンボスなどでパターンの変化を生み出す手法に拘った。淡い陰影の中に、日本人の好む素朴ながら清楚で豊かな表情の美しさを追求する為に、エンボスを押す型の制作に最新のレーザー加工機を使用するなど、新しい陶芸の表現手法にもトライした意欲作となった。毎日終日陶芸工房に籠もりきりだった彼女の本当の笑顔を見たのは卒展会場だったかも知れない。

加藤拓哉 comoru
加藤
優秀賞おめでとう。
狙い続けた自動車メーカーへの就職を果たした彼は、ブレること無くモビリティーの分野に挑戦した。comoru は、名前の通り、狭い空間だからこそ得る事の出来るプライベートな空間を使い、1人の時間を満喫する為のクルマ。(パッケージはタンデムに2人乗れるレイアウト) 四隅に配置された車輪には流行のインホイルモーターを使った小廻りの利く機動性と、不安定とも見える車幅をバッテリーの床下レイアウトで低重心化を図りつつ、室内空間をシンプルに広げる手法は特に新しい発想では無いが、「引きこもる」という言葉をポジティブに捉え「魅力的な生活スタイル」だと宣言する切り口はユニークで今風だと感じた。電動化の流れの中で移動手段としての性能もさることながら、移動した先で「停まっている時の価値」を見つめ、自分の部屋の延長として大きな画面で映画を楽しんだり、デスクワークをしたり、車内泊が出来たり、仲の良い2人で時間を過ごすなど…趣味の世界に浸るための空間に重きが置かれている。 若い世代をターゲットにしているが、父親の復権が絶望的な時代、逃避行したいオヤジにも響くかも…(笑)最終的には外連味の無いシンプルなカタチに落ち着いたが、生活の背景、生活者のマインド、用途、パッケージ、サイズ、構造、スタイル、カラー…と一通りのプロセスを経て、コンパクトなパーソナルモビリティーを模索した彼の姿は卒業後に彼がもがき苦しむ体験の序章かも知れない。クレイモデルの塗装に失敗したと本人はとても気に病んでいたが、初めてのプロセスばかりのフルサイズのテーピングやクレイモデルのフィニッシュなど、その健闘を讃えたい。

坂口夏佳 Carry art
坂口
Carry art は、若い女性をターゲットとしたスケッチ旅行用キャリーボックス。 画材はもちろん、スケッチブックや椅子、イーゼルまでをひとまとめにして運んでしまおうという美大生ならではの「あるある」ネタのせいか、共感できる人も多いのではないかと思う。収納や移動といった機能的な側面を満たす為に即物的なアプローチが強く、女性を意識したフィニッシュに苦慮した様だが、アンティークな革のカバンにそのイメージを求め、持ち手の曲げ木やフレームのステイン処理など、シックな外観に落ち着いた。革のベルトがアクセントになり、本人が意図したちょっとしたオシャレ感は達成できたのではないかと思う。彼女も木工室での作業に明け暮れたが、その工程は平坦では無く、伸縮するハンドルの構造、各パーツをホールドする仕組み、キレイなカーブに拘った曲げ木のハンドル、レザー(合皮)の貼り込みなど多くのプロセスをコツコツ仕上げていくクラフト作業となった。歩いて行ける所ばかりでは無いスケッチ旅行を考えると、電車の網棚やクルマのトランク、飛行機のバゲージチェックなどとの寸法検証や固定方法、イーゼルとして使用する時に地面の水平を担保するアジャスターなど、更なる視点の追加でクオリティーを上げていける可能性を感じる。

坂本巌 HouZoo
坂本
3年生の時から暖めていたという、動物をモチーフにした家庭で使う収納用具。モチーフに選んだ動物の生態や特徴を活かした機能を考え、シリコンで型取りしながら形状の改良や色のチューニングを行った。 忠実に主人の鍵を咥えて佇む犬のキーホルダー、差したカトラリーが羽の様に広がる孔雀の食器立て、巻いたコードがとぐろを巻く姿になる蛇のコードリール、尻尾に歯ブラシを巻き付けホールドするタツノオトシゴ型フック、ペンやハサミなどを立てると背びれになるミノカサゴ型文具立ての5点を展示。 家(ハウス)の中に動物園をという意味合いから「HouZoo」なるブランドを想定し、展示ではカタログに纏めた商品イメージやノベリティーとしての絵はがきなど広宣ツールもイメージした展開とした。 ものづくりには試行錯誤が付きものだが、彼も多くの検証と失敗と繰り返した。 ホールドする為に適切な硬度や自立する為の形状や安定感の担保、シリコン成形で起こる気泡や微妙な色のチューニングなどなど…彼の机の上には失敗作が山積みとなり、量産が始まったのかと錯覚するほど。 一筋縄では思うカタチに辿り付けない経験こそが「ものつくり」の醍醐味だし、社会に出てからの耐力として自分を支えてくれる強い味方になることを願っている。 彼は卒展会場で流したビデオの編集を担当し、自分の作業の合間にクラスのメンバーの撮影なども手掛けてくれた。御苦労様!

園部莉世 おりかびん
園部
今年の卒業制作の特徴のひとつは「素材開発」に取り組んだ学生が出てきたこと。 今回の彼女の提案は、防水加工を施した和紙を使用した花器。 彼女ほど自分が愛する素材が明快で、卒業制作に選ぶ素材にもブレの無かった学生はいない。 そう、彼女は「素材」から入ってきた。 何を作るかよりも、誰が使うかよりも、彼女の関心事は「紙」だった。「コピー用紙ってきれいだよね?!」という友人への問い掛けに、いつも怪訝な顔を返され続けたという彼女。(分かるよ〜コピー用紙の美しさ) シンプルな折り目だけで、日向、日陰、透けの深い陰影を作る紙の魅力に取り憑かれた彼女は、とにかく紙を使うことを先に決めた。 当初なかなかコンセプトが決まらず、本人は知らないが毎回「園部はどうするんだ?!」と教員間で会議。 一方、色々な紙漉の工房を訪ね歩いた彼女は、ついに学内に紙漉場を作り自分で紙を漉き始めた。何か面白いことが始まった…と思っていたらいつの間にか和紙に色々な物を混ぜ始め、色や起伏などとても綺麗なオリジナルの和紙を作り始めた。美しさだけでは無く、混ぜる物によって強度や加工性が変わることに気付いたのか、彼女の関心は和紙に防水性を持たせることに動き始め、柿渋や漆、シリコンや様々なスプレー加工などに広がり、特性データを取り始めた。 彼女が得意とするシンプルな折り目で紙を立体的に曲げたのち漆で固めることで、水を汲んでも大丈夫なほどの耐水性と結構な強度を手に入れた。展示では、彼女の「紙」に対する愛情が存分に発揮され、自分で漉いた紙の見本帳を和綴じ本で見せてくれた。デザインの仕事には研究開発としての側面があり、イメージする商品を実現する為に、素材から探す…無ければ作る、そんなプロセスに踏み込んだ彼女のアプローチは「ものづくり」に携わる私達に拘ることの意味を伝えてくれる。

滝川晋也 朽美倶 cubic
滝川
朽美倶 cubic は、錆やガラスの割れた建築、絡まった配線など、廃墟に見られる「朽ち」た素材感、風合い、色などに触発された作品。素材研究では無いので先の園部の様なアプローチでは無いが、彼もまた「素材」の虜になった学生のひとり。 当初、何を作りたいのか、どういうコンセプトなのか、何を伝えようとしているのか…教員達の頭の中を「????」で一杯にした前科者。誰もが彼は留年するつもりなのか…と思っていた頃、長崎県の軍艦島を訪れた彼は、その目でかつて炭鉱で繁栄した時代から長い年月を経たその朽ちた姿に何か自分の感性に寄り添う「美」を発見した様だ。 儚さや虚しさ、無念な想いや寂しさに加え、彼には素材としての魅力を感じる出会いとなったらしい。 デザインとして「素材の美」を売る視点はある。自然の力で風化したものに長い時間を感じたり、偶発的に出来上がった風合いに2つと無い希少性を感じる気持ちは充分に理解出来る。 問題はそれをどうやってプロダクトデザインに落とし込むか…これは結構高いハードルだったと思う。オブジェとしては面白い風合いと存在感を放ち、一見すると現代アートの様にも見える作品は、問題解決といった通常のストーリーには乗せず、個人が感じた感動や発見をストレートに表現する道を選ぶことになった。錆びたパイプを繋いだ塊は椅子なのだが、座面を支えるポイントを減らし外側に寄せることで、以外にも(失礼)座った時の弾力性を考慮している…そういうところにデザインを学んだ人間の配慮が働いていると思うと面白い。

鶴田夏実 sumirror
鶴田
1人暮らしの女性をターゲットにしたドレッサーの提案。 彼女の作品のポイントは、これを玄関に設置する点にある。家の中と外を繋ぐ玄関は人の気持ちのオン/オフを切り替えるスイッチの様に彼女には見えているのでは無いかと思う。出かける時にパッと身だしなみをチェックし必要な化粧直しをする…腰を据えることなく立ち作業で済ませる化粧は自ずと手早く簡潔な作業をもたらし、時間と場所をセーブする。また外出時に必要な鍵や定期、時計や簡単なアクセサリーなど、携帯が習慣化しているものをひとまとめにしておくことで、散らかりがちな小物を忘れることなく持ち出せるとのこと。帰宅時も sumirror の前を通過する際に小物を外し収納する儀式を経ることで「家モード」に気持ちが切り替わるとすれば、単なる収納付き鏡という道具を超えて人の気持ちに寄り添う相棒となり得るかも知れない。 当初、ハニカム式に繋がった布が鏡の裏から横に広がりながら収納ラックとして機能する構造を延々考えていたが、収納物のサイズのバラツキや持ち物の個人差なども考慮して最終的には自由にアッセンブルできる三角形を基調とした造形に変更した。ビビッときたアイデアに執着することも大事だが、本質を見ながら冷静に自分のアイデアを切り捨てていけることもデザイナーには必要なスキル。シンプルな形状だが、鏡の気持ち良い摺動性を実現する為に多くのトライ&エラーを繰り返した。お陰で動かす時のスムースさや閉まる瞬間の節度感など手に伝わってくるクオリティーも高い作品となった。

寺石有希 万華鏡
寺石
最近は、等身大の「暮らし」を大切にした作品が多いと感じる。実体験として学生自身がイメージし易いという理由もあろうが、昨年の水陸両用レスキュー車や観光地用モビリティー、発展途上国での運搬用具、外国人用観光案内、介護用医療器具などの公共性があるものに比べ、今年はモビリティーは1人で籠もるコンパクトカー、趣味と日常で使うバイクを加え、その他も自宅若しくは個人で使う収納や道具が15人、残りの作品はレジャー用品、素材研究、バー空間という異色組。 そんな中で彼女の作品もまた個人宅での展示型収納装置とでも言うべき家具…ではあるが、鏡面を使用した天板、立体的に構成されたリングが作る影、全体に施されたパールホワイト塗装など、複雑な陰影を演出するステージ感は、スポットライトを当てることでより豪華なイメージとなり、ショップのディスプレーとしても使えそうな華やかさを持つ作品になった。 数種類の大きさのリングで変化を付け、任意の位置にレイアウトし直すことでバリエーションを作る構造となっている。 また、照明の反射が鏡面の天板に施されたカットを壁面に映す演出となっている。 鏡面の天板はリングの直径部に設置されているため、覗き込むと上半分のリングが映り込み下半分と重なるため、一見、天板が透明のパネルの様な錯覚を生む面白い効果が出た。 大いに迷い…なかなか最終形状が決まらず、後半は木工作業に明け暮れたが、幾何学的な形状をトリマーで加工するスキルを最も身に付けた学生かも知れない。 タイトルの様に表情がクルクル変わる面白さを楽しめる…色々な方向から覗き込んで欲しい作品になった。

中澤右  B-packer
中澤
優秀賞おめでとう。
彼の作品に出会って初めて「輪行」という言葉を知った。彼も自転車というブレない趣味を持ち、普段から実体験者として自転車に関する要望や問題点を経験してきたに違いない。時折電車の中で見かけるスポーツ用自転車を畳み袋に入れて運んでいる人を見かけるが、この行為を「輪行」と呼ぶらしい。既存の輪行バッグには安定性とプロテクト性能が高いハードタイプと、手軽さ・軽量・非使用時のコンパクトさが魅力のソフトケースがあり、それぞれに裏返しのデメリットがある。彼の作品は両者のいいとこ取りを目指したアプローチで、非使用時にはコンパクトなパッケージになるハードボードにナイロン製のソフトケースが組み合わされている。使用時には拡張したパッケージがベースプレートになり安定性を担保する。既存の布製バッグは自転車を入れる際、ハードケースの様に自立しないため作業に手間が掛かる点にも注目し、自動車のウインドシールド用の日除けの様に芯材の反力でポップアップする構造を採用した。「いいとこ取り」…中間亜種という切り口は、時に「悪いとこ取り」にもなりかねないリスクがあり、「何でもできる」は結局「何もできない」総花的な未熟さを露呈することもあるが、非使用時にはパッケージに収まった状態でサドルの後ろに固定することで可搬性にも優れたこの作品は、直ぐにでも商品化が可能な完成度を見せた。日頃から自転車を触る為に揃えた工具類は、モデル制作にも大いに役立った様だ。

永田明里 irodori
永田
最優秀賞おめでとう。
彼女の魅力は、いつも絶やすことのない周囲への気配り。隣で他の学生と話している時に捜し物や不便を感じていると、サッと必要な道具や情報を差し出してくれる…ドラえもんの様な存在。作品の紹介ぢゃないのかいっ! 私がデザイナーという仕事に就く資質としてとても大切だと感じるコア・コンピテンシーは「サービス精神」というもの。人が喜んでくれると嬉しい…そんな素朴で根源的な気持ちがデザイナーの…何にも勝るモチベーションでありエネルギー源。 彼女は「サービス精神」の星からやって来た「サービス星人」…ダジャレかいっ! 彼女のキャラクターはさておいて、irodori は、永田の作品の前で21人暮らしをする人達を応援する、テーブル、収納、パーティションの3つの機能を欲張りに、美しく表現した家具。この春から就職に伴い1人暮らしを始める彼女には等身大の「暮らし」に根を下ろした着想で、リアリティーのある作品になった。木工の仕上げも巧みで美しく、可動部の仕組みや構造もキレイに纏めた。当初壁面に据え置き、若しくは後付けで壁に固定する想定だったが、両面から使える発想に切り替えた途端、パーティション機能も付加されることになり、ユーザーの自由度を拡張した。テーブルを置けばダイニング、布団を敷けば寝室になる日本人の習慣や合理性が根底にあり、限られた空間を賢く使う知恵を違和感なく表現している点でとても日本人的な作品と言えるかも知れない。会場で本人不在時に作品を紹介した(筆者の仕事がらみの)某企業の社長は「是非、欲しい…幾らくらいなら譲って貰えるのか…」という1コマも…。展示会場では、ついつい学生達が集まり寛ぐ姿も…。

中塚宗史 Kuro
中塚1
優秀賞おめでとう。
いやー、今までのプロダクトデザインコースの作品の中には無かったカテゴリー。インテリアデザイン? 空間デザイン? 「Kuro」は、2人で差し向かえで食事や飲食を楽しむ1坪のバー空間。 居酒屋の個室では無く、あくまでも「和風バー」というコンセプトを彼は大切にしてきた。 空間のイメージを把握する為にアトリエの後方に1坪の小屋を組み立てたが、不思議と近くに寄ると…入って籠もりたくなる衝動に駆られる。なるほど、基地遊びや押し入れに入って遊んだ子供の頃の気持ちが懐かしいのか、床に座り壁にもたれていると何とも気持ち良く落ち着く。本人は和柄の刺繍の入ったジャケットなどをスマートに着こなす中塚2洒落者で男前…なかなかカッコ良い九州男児で、独特の世界観は作品と通じるものがある。実際に飲食店でアルバイトをしてきた彼が暖めてきた理想の空間を実現したかった様だ。 黒畳を敷き、墨で染めた和紙に囲まれ、天井とテーブルの間接照明でほの暗い空間に微かに感じる赤いレザーに身を置いていると、プロダクトデザインって自由だなぁ〜と感じる。カテゴリーに縛られず、自分が表現したいものを立体的に考えることが大事と教えられた。 写真では暗くて判り辛いが、囲炉裏風のテーブルもしっかりした木工スキルで仕上げられており、レーザーを使った照明パネルも凝った作りで、本人の拘りを感じさせた。搬入から設営まで破格の大変さを誇る作品だったが、とても想い出に残る作品になった。

廣瀬琴子 heres.
廣瀬
「heres.」は「子供の成長と共に成長する家具」というユニークなコンセプトを具現化している。200mm四方の枡形ボックスには仕切りの有無やフタの有無など4種類のバリエーションがあり、音楽室の吸音壁の様なパーフォレーションパネルの任意の位置にレイアウトすることが出来る。 彼女は教職課程も履修しており「教育」という視点に興味がある様だ。 最初から知育に関連するテーマを研究しており、成長していく課程…その長い時間を共有出来るモノとして家具を選んだ。 当初はカラフルなピースで任意の形に天板の形状を組み替えることが出来る机やパーティションを検討していたが、ある時から「そこに入れる物」の意味を深く考える様になった。子供の頃から大切にしてきた宝物や手紙、記念のオブジェや想い出の品など成長の過程で手にしてきた…その人にとっての価値の広がりや時間の流れを、成長していくように繋がる家具のビジュアルとシンクロさせることで、高い所に手が届くようになった外面的な成長と大切に箱にしまわれた内面の成長の過程の両方をメモリアルに見せている。親も子供と一緒に「パーソナルな価値を大切にしまう」行為を手本として示すことで、家族の絆やコミュニケーションを促す装置としても機能させることを彼女は意図している。最終形態に至るまでには紆余曲折があったが、樹の材質や色・風合いにまで想いを乗せ、ナチュラルでとても美しいビジュアルに仕上がった。筆者にも経験がある…学校の帰り道、色んなものを拾って帰っては怒られた子供の頃、こっそり大切なものを隠しておける、こんな家具があったら絶対に欲しかったと思う。

堀田蒼  Dessin
堀田
JIDA最優秀賞おめでとう。
クールだねぇ。「Dessin」は、何と白黒専用のデジタルカメラ。今やスマホを持つことで、カメラも音楽プレーヤーもナビも時刻表もスケジュール表もゲーム機も…全てのものを持ち歩く時代。失敗を気にせず現像にお金も掛からないカメラを殆どの人が持っている。カラーが当たり前で、おまけに様々な加工アプリのついた遊ぶ機能に溢れ、足し算的付加価値全盛の機能合戦が繰り広げられる中、敢えて白黒の表現力に魅力を感じた彼の感性にとても共感出来る。アンゼル・アダムスやセバスチャン・サルガドの写真の鳥肌が立つような光と影の存在感に圧倒されたことがあれば、その魅力は百の言葉よりも脳裏に刻み込まれているはず。 白黒写真には色が無いが、カラーフィルターを駆使するコントラストワークや、焼き込み加減で劇的に印象が変わるそのダイナミクスは経験すればする程、その奥の深さに心が躍る。最新のデジタル技術を前提にしながらもホールド時のフォームから自然にブラインドタッチが可能な操作系やグリップ感、右目でファインダーを覗きながら、左目で色つきの現実が確認出来る様にカットアウェイされたボディーデザインなど、プロダクトデザインらしいプロダクトデザインの提案が生まれたことがとても嬉しい。そして何よりモダンでカッコいいそのフォルムは、2001年に富士フィルムから発売されたポルシェデザインの「FinePix 6800Z」を初めて見た時に…スペックも見ずに感じた所有欲と同質のワクワク感を感じさせてくれた。彼は大学院に進学するが、コツコツ積み上げるようなその取り組み姿勢には好感が持て、巧みなスケッチワークを後輩達にも指導してやって欲しい。

松浦汐里 iki
松浦4松浦3
デザインの仕事をしていて楽しい気持ちになる場面のひとつが、こういう作品に出会った時じゃないかな!「iki」 という作品は、一見ワンプレート型の食器…色んなおかずをお子様ランチの様に乗せる簡易皿の様に見えるかも知れない。でもよく見て!…その凹凸やグラフィックは単に仕切りでエリアを切り分けた形ではないし、色も大人っぽくてオシャレ、何より陶器製で簡易皿のプラスチックの様なチープな質感でもない。勿論、丁寧に扱わないと割れるデリケートなプレート。 炒めたチャーハンをフライパンのまま食べる、ハンガーに掛けるのが面倒なジャケットをソファの背もたれに放る…面倒故に私達が日常生活の中でついついしてしまう「ズボラ」な行為。でも彼女の発想は、こういった「ズボラな行為」が実は合理的であるという視点で捉えたところから、そのユニークさがスタートしている。「ズボラ」を行儀が悪い行為では無く、デザインの力で自然で効率的な所作に変えてしまおうという提案。 誰にも覚えがある気付きから出発しているので、とてもユニークだけど激しく共感できる。従来の仕切りに対し即物的に食材を乗せるのではなく、不思議な形の凹凸やレリーフは料理の見た目を美しく演出するし、陶器の適度な重みと質感は食事の行為に神聖な気持ちで向き合うことを促してくれる。(講評の中にはプラスチックの方が軽量で取り扱いも楽なのでは…というコメントもあったが、筆者は上記の点で陶器にして正解だったと思う)そして大切なのは、結果として一度におかずを運ぶことができ、洗い物も減ること。リバーシブルに使える形状は、食材や気分に合わせてバリエーションも提供してくれる。当初、ハレの日にしか日の目を見ない「お重」の合理性をもっと日常で使えないかというアプローチで取り組み、日本の古くからある文化を再定義する点で面白いテーマだと感じていたが、よりシンプルにまとまり、人の仕草や所作を変え、マナーや行儀の意味を再認識させてくれた「iki」は、とても魅力的な作品だった。

三好悠介 UX-50
三好
「UX-50」は、日常使いの原付バイクをオフロードテイストに仕上げた作品…そう書くと表層的なスタイリングのバリエーションの様に聞こえるかも知れないが、実は意外にこのジャンルには市販モデルが無い。作者自身がオフロードバイクをこよなく愛すライダーの1人で、自分の得意分野で勝負した力作だ。「未開地の島に靴を売る」…誰も靴を履いていないから売れると思うか、靴を履くという文化が無いから売れないと思うか…デザイナーはいつも新しい視点を見つけた時に、これが市場になるのかどうかという判断を迫られる。確かに原付バイクの市場はスクータータイプが主流で、HONDAのモンキーに代表される趣味性の強いものやスーパーカブの様な実用性〜ファッション性に振れたものが印象に残っている。 確かに、SUZUKI DR-Z50、YAMAHA PW50、HONDA CRF50F など、モトクロス風やトレールバイク的なオフロードテイストのモデルも存在するが、あくまでもスポーツイメージモデルで、日常使いとしてのスクーターが備える収納は備えてはいない。 両方を備えることは本物のオフロード感を阻害し、スクーターの乗り心地をスポイルしてしまう「なんちゃって感」商品になるリスクもあるが、ここは「好きなオフ・テイストを楽しみたいが日常では実用性が無いと不便だ」というニッチを信じて攻めてみよう。 スタイリングは従来のオフロードイメージとは一線を画し、大径タイヤも燃タンの下に剥き出しのエンジンレイアウトも無い。フレームに囲まれたユーティリティーボックスをニーグリップするセンターにレイアウトし、小径タイヤにエンジンとオートマチックトランスミッションを後輪前部に配置するスクーターのレイアウト。 イメージだけで比較すると、むしろ電動バイク:YAMAHA EC-02 でのスタイルチャレンジに近い。彼は新しいカテゴリーキラーとして HONDA の GROM も意識した様だが向こうは125cc。 初めて描いたというフルサイズのテーピングもセンス良くまとめ、モデルもテーピングに近い造形になったと思う。何より実車を改造し、フレームの溶接からFRPでのカウル制作まで、初めてのことだらけの工程を悪戦苦闘しながらモノにした、その頑張りを高く評価したい。

武藤ほなみ shiawase na Hibi
武藤
優秀賞・JIDA優秀賞おめでとう。
「ギフト」というキーワードからスタートした彼女の作品「shiawase na Hibe」は、新しく1人暮らしをスタートする人にプレゼントするカタログギフトの提案。 1人暮らしを始める人達…進学が決まって下宿生活を始めるひとや就職が決まって地元を離れる人、転勤が決まって新天地に赴任する人…「色々な別れと出会いがセットになった人生のイベントに然るべき贈り物をあげたい」…そんな新しいギフトの習慣を作りビジネスに繋げていけないかという「ことづくり」の視点は、デザインを学ぶ学生達に身に付けて欲しいポイント。 貰って嬉しい人気のギフトとは何か?、距離が離れた友人にどういう流れで渡せばよいか?、現状のギフトの問題点は何か?…彼女が行ったリサーチは今時の手法で、Twitterの投票機能だったそうだ。 様々な設問を投げ任意の回答を集計するが、数百のn数からのフィードバックが得られたそうだ。 今回の作品ではカタログギフトに焦点を当てているが、転居時に貰うと嬉しい/助かる品目を絞り色柄のバリエーションを広げたアイテムを揃え、贈り手側のメッセージを添えることが可能な点と、受け手側の手元に残ったカタログやパッケージを捨てること無く、万年カレンダーや商品を使いやすくする為のパーツに加工することで記念として永く使ってもらえる演出を付加価値として追加している。 時代の手段を活用したリサーチ手法、女性らしい繊細で美しいビジュアル表現とカタログギフトの仕組みにまで踏み込んだ企画、プロダクトとして立体物に組み立てる構造や素材の吟味…各場面で色々な知識や考察が実行されたプロセスが魅力的で、彼女の新しい門出に相応しい作品になった。

山田雄都 ASTERiE

山田
「シーウォーク」…恥ずかしながら、こういうレジャーがあること自体知らなかった。 日本では沖縄と静岡の2カ所でしか体験出来ないそうで、潜水用のヘルメットを装着し浅い海の底を散歩するらしい。 彼がどこからこのテーマに辿り着いたのかは遂に聞き逃したが、彼自身も沖縄で体験しその課題点を掘り下げてきた。確かに卒展会場でも掲示された現在のシーウォーク用ヘルメットの「ダサさ」は目眩がするほどで、スタイリングの改善だけでもそこそこの提案が出来そうなテーマ。 彼が問題点としてピックアップしたのは、せっかく友人同士で潜っても会話も出来ない状況に陥ること、美しい魚や海中の景色を写真に収めたくても操作が著しく困難なこと、水圧による水抜きをする際にヘルメット内に水が入ること…など。 確かに…インスタ流行りの今の時代、写真に撮れない経験と言うだけで価値が半減しそうだ。そんな課題を解決する為に、個体間の通信システム(マイクとスピーカーで会話が出来る仕組み)と、前面の透明シールドに映し出されるインターフェースを見ながらグローブに仕込まれたスイッチで簡単に写真を撮ることができる機能、撮影した画像を保存する為のハードウエアを後頭部に背負うことで身体への負担を軽減するレイアウト、顎下に手を入れる穴を設けヘルメットを浮かせることなく水抜きが出来る仕組み…など、新しい機能をインパクトのあるスタイリングにまとめ上げた。 彼はスケッチが得意な学生で普段からSF的な人物や道具を描くことに長けており、今回もアイデアスケッチはもちろんプレゼン用のレンダリングまで、大いにそのスキルを魅せてくれた。 複雑な形状のヘルメットには3Dプリンターが活躍し、検証しながらスタイリングの精度を上げていった。

山口祥吾 浄水発生土の用途開発研究
山口
桃美会賞・JIDAセントラル画材賞おめでとう。
彼はどちらかというと研究家タイプ。 普段は寡黙だが、ひょっこり研究室に来ては「良いデザインとは何か?」「プロダクトデザインの未来はどうあるべきか?」といった問答をして帰る…といったキャラクターで、哲学的に自分の行為の意味を見出そうとしている様にさえ感じる。 今回の作品は、産業廃棄物である浄水発生土(脱水ケーキというらしい)の性質を活かしてプロダクトへの展開を図りたいという社会性のあるテーマ。 市の浄水場から廃棄される脱水ケーキを貰ってきては、色々な物と混ぜては焼成し、コツコツとその特性データを積み重ねた。 結果、成形性、保水性、耐久性、経済性をバランス良く実現する混合物と混合比を見極め、その特質を活かす商品アイデアへと進めた。 公共と個人、屋外と屋内の2つの座標軸を持つマップの中から1つずつ用途を考察し、水やり頻度が少なくて済む花瓶、長時間使用ができるアロマデフューザー、湿度をコントロールする外構壁、水はけに優れた舗装タイルの4つを提案することとなったが、それぞれにシンプルながら意味のある形状をベースに見応えのある展示になった。 材料研究時は陶芸室に籠もり、最終的な形状を複製する泥漿鋳込みの母型作りには3Dプリンターを使用し、鋳込みが始まると再び陶芸室に籠もり、空いた時間にはパネルやスケッチ(CG作成)に費やす…多くの試行錯誤を繰り返したが、初期からブレないテーマで取り組むことができ、卒展では多くの人が足を止め「プロダクトデザインというのは、こういうこともするのですか?」という質問も頂いた。 一般的に、デザインは色とカタチのコト…商品としての形を考える仕事と思われがちだが、そこに行き着くまでの着眼点や解決アイデア、様々な製造要件や設計要件、コスト、法規、時には理想に近付くための素材開発にまで手を染める仕事であることを垣間見せてくれる作品になった。

如何だったでしょうか?
各学生が様々な視点から「ものづくり」「ことづくり」を目指し、大学生活で学んだことの総括として取り組んだ1年間。

彼らには、社会に出てからの長い時間のどこかで、みんなで藻掻きながらも達成した大きな成果を思い出して欲しい。 順調な時はいい…苦しいと感じた時に、一番純粋な気持ちでデザインについて考え続けた聖地に立ち戻って欲しい…きっと、学生時代から成長した自分に気付くことが出来るから。 あの時は頑張れた…その気持ちが未来の自分を支えてくれるに違いないから。

PD 金澤