今年もこの時期がやってきました。
創立50周年を迎えた今年度、初めて学内での開催となった第25回卒業制作展では、9名の4年生がプロダクトデザインコースから巣立ちます。
美術館に比べ、ひとり当たりの面積もゆったり取ることができ、美術館では展示出来ない、水物や生もの、音を出したり物販をしたり…各コースともに趣向を凝らした展示が面白い卒展となりました。地の利が悪いことと毎回アトリエを片付ける労力を思うと、学生が可哀想な側面や大変さはありますが、学内での卒展自体は悪く無いと感じます。 取り分けプロダクトデザインのフィールドは美術館の隔離された権威や風格は必要とせず、生活の延長線上にあると感じて貰える方が良いかも知れませんね。
例年通り、今年も学籍番号順に一気に御紹介します。
【ゆるふわタウン】加藤愛理
桃美会賞、JIDA優秀賞おめでとう。
ネット上の仮想空間に広がる街「ゆるふわタウン」。 動物をモチーフにした、そこに住む住人達は色々な個性を持ち様々な仕事をしている。アバターとして入り込んだユーザーが体験する新しい「商空間」の提案。
スポンサーになる企業がこの架空の街に出店し、アバターであるユーザーが買い物や住人達とのコミュニケーション、或いは、同じ様にこの街を訪れた他のアバター(ユーザー)と情報交換などをすることができ、「ゆるふわタウン」で手に入れたポイントなどが、現実の店舗でも使えるサービスを提供する仕組み。
1990年、富士通がハビタットという、チャットを中心とした仮想現実空間を提案したことがあったが、eコマースをよりリアルな体験型テーマパークの様にすることで、別の人格を楽しんだり、新たな出会いを含めたネットワークの構築に活用するという、SNS+EC+RPG を提案しようとしている。
彼女は「ゆるふわタウン」の住人達であるキャラクターのLINEスタンプを実際に販売し、人気の動向を確認したり、キャラクター設定の精度を上げたり…と結構、ロジカルな検証を交えながら、それぞれの愛くるしいキャラクターを立体化した。
彼女は1年生の時から一貫してこういったキャラクターデザインに関心を持ち、卒制では加藤ワールド全開の楽しい作品となった。「モノからコト」と言われて久しく、商品がサービスやコンテンツに変わっていく時代、必ずしも物品に帰結することなく自由に企画を考え自分の好きな世界をどうビジネスに乗せていくか…という視点は益々必要になる。 彼女の作品は一見とてもファンシーだが、彼女なりのビジネスとしての視点を掘り下げ、映像やノベリティー、キャラクターグッズなどにも可能性を求め、アートとデザインを橋渡しする自由な「モノ」「コト」の表現にチャレンジできたと思う。 従来のプロダクトの概念に縛られることなく、自由に企画を展開したアイデアとイメージを広げた点を高く評価したい。
【neiro】関谷祥子
JIDA最優秀賞、コース内優秀賞おめでとう。
桃美会賞は逃したが、私の中では、この関谷と上述の加藤で迷った。 色を音に変える装置…という、新しい視点をどう商品に展開していくのか…早くからテーマは決まったが、その表現には紆余曲折があった。
スマホの登場で、今や誰もが旅行先や日常で手軽に写真を撮り、それをSNSなどで簡単に拡散することができる時代になった。彼女の提案は、専用のカメラで撮影した写真画像の色の要素を抽出し、帯状の色短冊を出力。この色帯を専用のプレイヤーに装着すると、独自のアルゴリズムで音に変換するというもので、景色の画像だけではなく、その体験に音楽を添えて想い出をステキに演出しようというもの。
展示を御覧になった日本画の濱田先生から「自分の作品(絵画)の音を聴いてみたい」とコメント頂き、「音を意識した絵づくり」という発想で景色やモノを見る習慣などが芽生えて来るかも知れないと感じた。「インスタ映え」という言葉が流行語の年間大賞になったが、私達は日常生活の一部を切り取る作業に、人に見せる前提で「映えるか?」という視点を高く意識する様になったと思う。表現の手段が変われば意識が変わり、新たな発見や見過ごしていたディテールがクロースアップされ、人の所作や視点が変わっていくのはデザインの仕事をする醍醐味のひとつだ。
留学先のバウハウス大学で出会ったアルディーノをベースに、今までのプロダクトデザインコースのアウトプットからは「ひと味」違うアプローチを見せてくれたことを評価したい。 IOTの先駆けの様にスマートスピーカーなど、身近な生活を彩る機器が登場しているが、この作品もそういった新しいライフスタイルや意識の変化を敏感に感じながら、程良い未来感とリアリティーで提案している点が良かったと思う。 バウハウス大学では「立体で『もの』を考える習慣」を身に付けた彼女は、沢山のスケッチに負けないくらい沢山のモデルの残骸を生み出したが、アイデアを直ぐにカタチにして検証するプロセスもとても良かった。
データー・ラムスのデザインにインスパイアされた彼女の嗜好は、スマートスピーカーなどに代表される昨今のIOT商品の中でも見劣りしない、美しいリアリティーと上手くマッチした。
【モノとしての本】田中優帆
デジタルタブレットで本を読む時代。 まだまだページをめくる感覚が好きだったり、読了まで後どれくらい掛かるのかが分かる物理的な「本」が好きという方も多いだろう。 しかしながら、マンガと雑誌を除いた本を1ヶ月に読む冊数が「ゼロ」という人が33%と3人にひとりの割合に上ることが日本世論調査会が実施した調査で分かったそうだ。「若者の車離れ」と並んで「本離れ」の深刻さを裏付けた結果だ。原因を「スマートフォンやゲームに費やす時間が増えた」とする回答が73%を占め、読書時間がスマホなどに奪われているという。確かにインターネットで得られる情報で間に合い、一過性で旬を過ぎれば捨てていく雑誌などは、捨てる手間もいらないデジタルに置き換わっていくであろうし、重たい書籍の形態からはどんどん自由になっていくに違いない。 一方で、読書が自分にとって必要かを問うと「必要だ」(61%)「どちらかと言えば必要だ」(30%)の合計は91%になるという。
前置きが長くなったが、彼女の作品は改めて「モノとしての本」の価値を再定義したいというもの。色々なアイデアの中から今回は3つのアイデアをピックアップしモデル化した。大雑把に言うと「インタラクティブに本を楽しむ仕掛け」(各ページに「赤」を塗ることを誘発する本)、「寝る前の読書の心地よさを体験するカタチ」(畳むと枕に包まれる様な装丁を持った本)、「本に見えない立体物を形作るスタイル」(パフェのガラスコップのシルエットに収まるカード積層型の本)といった作品が展開された。
グラフィックの守備範囲とも言える書籍をプロダクトデザイナーの視点で見た時にどんな発展性が生まれるか…という切り口は興味深い。 単なる装丁に留まらず「本の自由なカタチ」に想いを馳せた点は良かったが、ターゲットやコスト、製法、流通など、デザインワークに必要な「製品」としての位置付けや、「商品」としての責任の取り方にまで準備が及ぶと更に良かった。
また「物理的な本の存在意義」「立体的な装丁」「ロマンチックな世界」という3つのキーワードが提示されたが、今回セレクトした3つのテーマに、もう一歩踏み込んだ関連性やシリーズとしてのテーマなど、ひとつの世界観を感じさせるアイデアがあっても良かった。
沢山の学外ネットワークを持つ彼女は、フリーペーパーの編集や、その流通などにも意欲的な活動をしており、グラフィックデザインの仕事にも強い関心を持っている。 展示もシンプルな垂れ幕式のバナーを吊り下げ、とかく平面的な展示になりがちなテーマを空間として見せるなど、センスの良さを感じさせてくれた。
【hide & seek】富田沙彩
コース内優秀賞おめでとう。
例年、数名が「ガッツリ木工」作業に取り組む。 彼女は、自分の趣味でもある手芸の作業場を発想の起点に、自由にアレンジ出来る収納棚を備えたローテーブルをテーマにした。 ユニット式の数種類のボックスを組み替えてアレンジするアイデアは、決して新しい物では無いが、タイトルにもある様に「見せる収納/隠す収納」という視点を加え、また、色々な趣味(彼女の場合は手芸)に特化したパーツを組み入れることでビジュアル的な新しさを見せる点を意識した。「hide」の部分では、ゴム紐を面を感じさせる程度に狭いピッチで張り、物を出し入れできる…さり気なく中に何が入っているかが分かる、パーシャルなものの見せ方としているのは、従来のオン/オフの「見せる収納/隠す収納」とは、ひと味違う…圧迫感の無い量感を感じさせることに成功している。ゴム紐にカードをピンナップするアレンジなども女性らしい楽しいアイデアだ。
木工作業は、シンプルな形状ではあるが、丁寧な工作作業を経て、寸法精度も良好な出来だ。 オイルステインでシックにまとまった表面処理は、決して外連味は無いが、嫌味のないシンプルで美しい仕上がりになった。 デザイナーにとって仕上がりのクオリティーに拘ることは大切で、見る者を安心させるその完成度は評価に値する。 前に座ってみると…座卓の高さなので、正座や胡座の姿勢で丁度良い作業場となるが、立ったり座ったりが容易な椅子の世界とは異なり、もしかしたら趣味の世界に集中・没頭しやすい体勢なのかも知れない…とローテーブルを再認識した。 落ち着いた色調のお陰で、居心地の良さを感じさせてくれるこの作品は…1坪くらいの狭いスペースに入れ、時に背を壁に凭れさせながら、趣味の時間(私の場合はミニカー作り)を楽しみたくなる出来栄えだ。
【素材による和の表現】長田果穂
コース内優秀賞おめでとう。
いつも穏やかなキャラクターの彼女は、デザイナーには少し優しすぎる個性だと感じてきた。 争うことを好まず、1年生の時から、いつもひとりアトリエに残りコツコツと真摯に課題に取り組む姿が印象的だった。 プライバシーにも触れるので詳細は割愛するが、大学に入学してから幾つかの辛い出来事を乗り越え、決して派手では無いが直向きに作業を進めてきた。
作品の評価ではなく、人物の説明は本来このレビューの趣旨ではないが、彼女の持つ優しい個性が、この作品にとてもよく反映されていると感じる。 テーマは「モノ」が使われていない時の存在の姿…とでも言うべき切り口で、トレイとコースターといった日常の道具が非使用時に壁に設けられたジグザグ型のホルダーに収納され、間接照明として機能するという作品。 使用しない「モノ」を単に不要なものと位置付けることなく、小奇麗に片付けたり飾ったりすることに主眼を置いた「見せる収納」とも異なり、照明という別の機能のモノに変えてしまう…というところがポイントのひとつ。
一方で彼女は「和」の表現に関心があり、当初から和紙や竹といった素材からのアプローチを積み重ねてきた。最終的には竹では無いが木目を表面に出した質感でシンプルな形状と合わせ、和室にも洋室にも違和感の無い家具…器具となった。 トレイにも和紙の様なテクスチュアと、日本の四季をテーマにしたUV印刷によるグラフィックが施され、滑り止めの機能だけでは無く、触った感触にも一工夫されている点は、CMF(色・素材・仕上げ)の視点からも合目的である。
山のシルエットに沈む夕日の美しさは、おそらく誰にも経験のある原風景のひとつだと思うが、彼女が表現に選んだモチーフに、どこか優しくホッとする…穏やかな心遣いを感じるのは、やはり作者の個性ではないかと思う。
【各スポーツに特化したアイウエアの提案】中根諒太
アップルウォッチが世に出て「ウェアラブル」という言葉も浸透し、他にも腕時計が心拍数や歩数、運動量や睡眠時間を計測し健康状態をビジュアルにする機能などを持ち始めている。 名探偵コナンも眼鏡型追跡装置で数々の事件を解決するが、彼が取り組んだテーマは、そんなアイウエア型の情報端末装置。
今回は特にスポーツを楽しむ人達をターゲットに、どんな機能があるべきかを考察し、未来のスポーツの楽しみ方を提案しようとしている。 彼なりに様々な競技を「対戦競技と自分と闘う競技」「激しい運動量を伴う競技と比較的移動エリアが小さい競技」の座標軸でカテゴライズし、「ジョギング」「ゴルフ」「テニス」「エアーホッケー」の4つの種目を選択。 それぞれの特性に合わせたアイウエアのモデルを検討したが、4つの象限とセレクトされた競技のマッチングには些かしっくり来ない分類分けを感じさせた。
「ジョギング」では、心拍数などの体調管理に加え、個人の記録やペースなどをモニタリングすることで、適切な運動量を示唆し、「ゴルフ」では、風向きや風速、カップまでの距離情報、ライン取り、アンジュレーションを格子柄の歪みで表現した画面などを見ることができる。
また「テニス」では、相手や自分の動きを録画することで、試合後の振り返りやフォームのチェックなどもでき、「エアーホッケー」では、画像情報だけでは無く音もその演出効果に加えることで、それぞれに「運動の管理」「練習の効率化」「技術の向上」「エンターテイメント要素の追加」など表示の目的によって、視覚情報の表現がアレンジされる。
モデルは、データ作成後、3Dプリンターで出力し、細部の仕上げ後、塗装…というプロセスで作られたが、「メガネ」という基本形状(エアホッケーのみはヘッドセット型だが)がある故に、4つのモデルは一見類似している。 上述の狙いや機能の表現に合わせ、外観の特徴を明快に棲み分けることができれば、もっと良かった。 むしろユーザーが装着している時に得られる情報に大きな差と特徴があるのなら、アイウエアの外観意匠だけでは無く、ユーザーが見ているインターフェースのデザインに、もっと時間を割いても良かった。
【X】日沖翔一
デザイナーが…「見たことの無いカタチ」…に直面した時に見せる反応は、大きく分けると「なんだこりゃ?」か「やられた!」の2種類ではないかと思う。 更に彼の作品は9割方が前者ではないかと推察する。 前者は見る者の想像を超えており、後者は理解できるが自分には発想できなかった悔しさが混ざる。 更に前者には、良い「なんだこりゃ?」と悪い「なんだこりゃ?」が存在する。 良い〜は、好奇心をくすぐられ、それが何かを知りたくなり、悪い〜は、嘲笑とともに理解したい気持ちも失せていく。
彼の作品は、良い「なんだこりゃ?」だと思う。 その特異なカタチが意味する機構も使い方も目的もサイズも未知でありながら、何故かSF映画に登場するプロップの様な未来感と食虫植物の様なディテールに目が奪われ、これが何かを知りたくてウズウズする。
彼の解説か説明資料を見ずに、新しい時代のパーソナルモビリティー…という答えに辿り着くには、相当豊かな想像力が必要だが、下から覗き込んで4枚のプロペラを見た瞬間に、ドローン型の移動装置であることに気付き始め、解説パネルを見て、彼の自由な発想に感心することになる。正直、私は個人的にこういう世界が嫌いではない…というか好きである(^^)
浮上するので、水陸両用であり、オールテレインの一種であり、移動手段であり、ホバリング手段でもある。 彼は当初から、釣りなどの趣味の世界で活躍する水陸両用というキーワードを提示しており、最終的にもそんな場面で活躍するビジュアルを示しているが、セグウェイの様に体重移動で方向をコントロールすることも出来るそうで、趣味やスポーツの世界だけでは無く、災害救助や物資輸送など様々な用途が想像出来る。 ドバイではホバーバイクを未来の警察の白バイ代わりに実用化する研究をしているそうで、意外と近い未来にリアリティーのあるプロトタイプが登場するのかも知れない。
モデルは、MDFという木の繊維を固めた板をレーザーカッターで断面毎に切り出し積層するという手法で作成し、左右や上下の対称性をデータで制御することで、難しいカタチを上手くコントロールした。
モデルはハーフサイズで、展示ではスケール感が不明な為、人が使用しているシーンをビジュアルで追加することとしたが、展示台にハーフサイズの人のシルエットを立てるなど、モデルのサイズでスケール感を表現すれば良かった。
【EAGLE Fast】楊松
コース内優秀賞おめでとう。
クルマ業界にいた私にとって、やはり思い入れの強い作品。2040年にはヨーロッパの幾つかの国ではディーゼル車やガソリン車の販売が出来なくなり、電気自動車やハイブリッド車が主流となる時代、当然の如くスポーツカーにもエコや環境と共存する風景が求められる。Chevroletの「VOLT」(レンジエクステンダーなので純粋なEVでは無いが)では物足りないスポーティー感も、「テスラ」や BMWの「i8」(これもハイブリッド)では、スポーツを感じるイメージになってきた。 そもそも回転数の上昇と共にトルクが上がるレシプロエンジンと比べ、オン/オフの世界の電気自動車は、いきなりマックストルクを掛けることができる点で実はスポーツカーに向いている。加速の良さも異次元な体感をもたらしてくれる。
空力について研究するには風洞試験室や特殊な計測機器が必要となる為、なかなか美術系の大学の設備ではハードルが高いが、一般的に空力上有利とされるセオリーを幾つか紹介し出来るだけパッケージングにも出鱈目な嘘の無いレイアウトをベースとした。 EVなので比較的レイアウトに自由度はある前提で、最も正圧が掛かる正面グリルから入る風を床下に流しダウンフォースを稼ぎ、ルーフ後端にはボルテックスジェネレータを設けリアスポイラーに風を当てるストーリー。 側面の風をボディーのセンターラインに近いところを通し後方に流す形状とする為に、乗員の左右のヒップポイントカップルを出来るだけ中央に寄せ、寝姿勢で乗るドライバーの足がフロントホイルハウスの内側に突っ込んでしまえるレイアウトとすることで、サイドビューでキャブフォワードなシルエットとした。 これにより、ボンネットフードとウインドシールドが極力「くの字」に折れない流れを作り、リアスポイラーまでの整流が必要なルーフ後端を長くとると同時に前進感のあるシルエットとなった。
モデルは硬質ウレタンで作成したが、彼は非常に作業が早く正確で、ディテールの始末には多少問題が残ったものの、大きなバランスや面出し、手際良く左右対称にする工程では、とても高いスキルを見せた。 クルマが大好きで、色々なクルマを日頃から見ている成果がきちんと出ていて感心した。
昨年の加藤君の様な箱形のクルマと異なり、自由なカーブをふんだんに交錯させるスポーツカーのモデリングは実に楽しい!(が、難しい) モデリングを進めるプロセスは企業時代に仲間達と微妙なカーブの巧拙を吟味した作業を彷彿させ、ワクワクするものだった。
【Corocoro shop】吉積里香
JIDAセントラル画材賞、おめでとう。
彼女は、実にストイックに計画的に作業を進めた学生のひとり。「Corocoro shop」は、フリーマーケッター用の移動式店舗。 美大生の中にはオリジナルのアクセサリーやカードを作り、クリエーターズ・マーケットに出品し販売している学生も多いが、彼女の作品はこういった出店をするクリエーター達に、持ち運びが可能で、組み立てると小洒落た店のファサードが出来上がる店舗什器のアイデア。
ネーミングの由来は、コロコロ引いて移動できるイメージと、棚などのレイアウトをコロコロと変化させることが出来る「様変わり」感を表現している。 画像で御覧頂いている店が…パーツを外して、畳んで、天板になっている箱に仕舞い込むと大型のスーツケースくらいの大きさに片付いてしまう。
彼女自身は、これまでクリエーターズ・マーケットに出店したことは無いそうで、今回の着手に当たって実際の出展者にヒアリングを行い、借りる場所のサイズや現状の問題点の抽出を早い段階からスタートさせた。 10月の芸祭で実際にこの作品のプロトタイプを使った模擬店を出店し、道具としての使い勝手を検証することを開発計画の中に位置付けた。 通常、10月はようやくモデル作成に着手する時期であるが、これを実行する為に計画的に作業を遂行した点は良かった。
最終形状に行き着くまでに9台の構成確認用のスケールモデルを作り、悲鳴をあげながらも、検証、修正を繰り返したプロセスは、地道だがデザイナーにとって極めて大切な道程を経験することができた。
モデルの材質は木の為、当初計画していた目標重量のハードルは高いものとなったが、白く塗装してしまうのであれば、製品では、脚などは樹脂で軽量化を図っても良く、持ち運びの利便性も更に向上しそうだ。
卒展でも、その使い勝手を検証する…という目的で、実際に自分で制作したアクセサリーやカードを作品に並べ、物販を実施。 これが、そこそこ売れるらしく…さぞや使い勝手は検証できたことと思う(^^)
さて、如何だったでしょうか?
今年の卒業生は、2014年度入学生で、私が転職し一緒に大学生活をスタートさせた学生達です。 私にしてみれば、1年生の頃からの様子を振り返ることが出来る初めての学年であり、彼らが卒業していくことを思うと一入の感慨もある。
…が、学生達は結構クールな様子だ。 毎年、その学年のカラーや特徴があり、同じ世代でもひと学年違うだけでクラスの雰囲気は異なるが、この学年は…ドライ…というか、卒展の当番枠以外は勿論、桃美会賞(コースから1名選出される優秀作品)が判明する初日にも学生が殆ど揃わない状況を見ていると、関心が無いのか、誰かが知り得れば即座にSNSで情報が手に入るから良いと思うのか…自身の作品にどれくらい執着や思い入れがあるのか、彼らは本当に完全燃焼したのかが、分からなくなる瞬間もある。(勿論、毎日の様に作品に張り付いている学生もいるが…)
…この4年間で、大切な何かをきちんと伝えることが出来なかったのだろうか?
PD 金澤