不時着した宇宙船から生還できたか!?

毎回、クラスの始めに前週のレポートの中から興味深いコメントを披露し、思うところを話すことにしています。
今回取り上げたのは、先週体験したブレーンストーミングの中で出てきた「相手のコメントを批判(否定)しない」というルールについて。
学生のコメントには「相手(の意見)を否定しないというのは案外難しい」とありました。

私達は…通常、何かを改善していく時には、現状を否定することを前提にしています。 良くしたいと思うからこそ、否定材料を改善すべきポイントとして探す習慣を持っています。また、自分の意見が明快であればあるほど、それ以外の意見には違和感を憶えるのも自然なことでしょう。

企業にいた時には…例えばモデルチェンジです。 商品企画の人間は営業部門から現行車の不評点をリストアップし「次期車では、これらを変えて欲しい。」…そんな企画書(らしきもの)がよく上がってきます。
でもデザイナーにとって、そんなものは企画書でも何でも無いのです。
今しか見ていない営業の現場と、ネガを直せば売れると無邪気に信じている企画からは、何も生まれません。
取り分けマイナーチェンジを買ってくれるユーザーは、心の何処かで現行車を肯定しているのです。 根本的に現行車を認めていない人には、何処をマイナーチェンジしても売り上げが挽回するとは思えない。
ネガ潰しだけでは決して顧客の満足度は上がらない…何に魅力を感じてくれているかを冷静に見て、それを更に伸ばす…外してはいけない部分を知ることが大事だと考えてきました。
「ネガ潰し」と「ポジ伸ばし」…前者は直って当たり前…ただ業界標準に並ぶだけ、後者はブランド価値に繋がる大切な視点と捉えるべきでしょう。
アイデアを出す時にも「否定」の箍(たが)を嵌めると現実的な「解決方法」にばかり頭が働き、箍を外すと夢への「実現方法」に思いを馳せる様になるのではないでしょうか?

先週・今週は、皆さんの貴重な土曜日を頂いて2コマ続きで、アイデア発想とグループ討議のワークショップ型授業です。
先週は、ブレーンストーミングを通して、個人では思いつかない領域に発想を拡散する体験をしました。

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これは、あくまでも開発で言えば初期の初期…アイデアを拡げるステージ。
アイデアを拡散させた後には必ず「合意形成」が必要です。 声が大きい人の意見が正しい訳でも、時間切れで最後に残っていたアイデアが優れている訳でもありません。
大切なのは「設問(目的)」を最初に共有すること。 チームの目指す方向が同じでこそ、議論が可能となります。

取り上げたのは「NASAプロジェクト」…これは月面で不時着した宇宙船の船員が、母船と合流する為に宇宙船に残された15品目の優先順位を決めるゲームです。 1/6の重力や真空、磁場の有無、母船との距離等の前提条件から、どういう作戦を立てるかでモノの優先順位が変わります。

NASA
最初のチーム発表から、いきなり「300kmを移動する危険よりも母船からの助けを待つ」作戦が議論されていた点は、ビックリ! 先週、紹介した「批判的思考」(客観的事実から全てのことを疑ってみる)を実践しているではありませんか! スゴーイ!!

合意した優先順位そのものよりも、作戦(コンセプト)を合意するプロセス、コンセプトに沿った優先理由(判断基準)の共有を体験して頂けたでしょうか?

そして、皆さんは無事生還できたでしょうか?!

プロダクトデザイン 金澤