知財のもうひとつの側面…共存共栄

「日本では、デザイナーの地位は低い」…これは…私が30年間、車のデザインに従事し感じてきた率直な印象。 ガンディーニやジュージアーロにデシルヴァ…数え上げればキリが無いビッグネーム達…日本人のケン・奥山氏、和田智氏、古くは児玉英雄氏も海外で名を馳せました。 取り分けインハウス(企業のデザイン部門などに籍を置くサラリーマン)デザイナーの社内での立ち位置は、これほど「デザインが大事」と解った様な声を聞く昨今でさえ、決して高くありません…

12月の声を聞き、本格的な寒さも到来した12月2日(月)、「ものづくりの法律」の授業では、招聘講師を招いての授業となりました。

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御登壇頂いたのは、前期の6月16日にも講義して頂き、女子大生のハートを鷲掴みにしていったコポキャラ株式会社(http://copoc.jp/)の代表:藤原聖仁さんです。(前期で単位が取れても、後期も藤原先生が来られるなら授業に潜り込みます…という学生が何人もいたのです…本当の話。)

「守・破・離」に始まり、知財の知識に留まらず、デザイナーとしての在り方までをリアルなエピソードを交え分かりやすく話して下さる藤原節は、何度聴いても面白く引き込まれます…前回の内容からもバージョンアップされていて、飽きさせない話しの流れが凄い!

(詳しくは前回時のブログ、https://www.nzu.ac.jp/blog/product/archives/date/2014/06 を御参照下さい)

核となる話しの内容は上記の前回ブログに任せて、今回は、少し異なる視点から藤原先生の言葉を見てみたいと思います。

企業にいた時代も含め、私がイメージとして捉えていた知財戦略は、大きくは2つ。
・1つ目は、自分の権利を守ることで他からの盗用を防ぐディフェンス作用。
・2つ目は、権利侵害している可能性がある競合を相手取り利益に繋げるオフェンス作用。
この2つは解り易い。
今回、目からウロコだったのは、サラッと紹介されたデザイナーのプレゼンスについての話。

…当日、御同行頂いたコポキャラさんのスタッフのお1人:謎のイラストレーター「かずはりんぬ氏」です。 藤原先生によると、彼女はコポキャラ社の社員でありながら、個人的にもイラストレーター、タレント、ブロガー、TVレポーターなどとして幅広く活動しているとのこと。(http://kazuharinnu.com 参照…御本人も作品に負けず、ユニークで魅力的なキャラクターです。)

cardつまり、彼女は「インハウスデザイナー」でありながら「フリーランスデザイナー」でもあるのです。 「インハウスデザイナー」の場合、その仕事の成果物は職務著作となり、会社の名前で公表されることになりますが、藤原先生のアイデアが進歩的な点は、まだ若いタレント(才能)を育てていく為に上記の様な変則的な契約を結んでいる点です。

「インハウスデザイナー」であるメリットは、ある一定の収入が安定することで、安心して創作活動に傾注出来ること。
「フリーランス」のメリットは実名で勝負しながらプレゼンスを上げ、会社の方針に縛られない個性を伸ばせること。
そして、個人の作家としてのプレゼンスが上がれば、所属会社であるコポキャラの利益にも繋がること。

前回のブログで私は、藤原先生のメッセージは、知財を通して見る「デザイナーの自律」だと書きました。
これはデザイナー自身が己を律する「自律」ですが、藤原先生は「若い才能の自立」を身を以てサポートしているのです。
雇用形態を説明する際の「社員のままだと個人名は出ないので…」という藤原先生の言葉の端に、後進育成に対する強い意志と、デザイナーのプレゼンスを上げる為の柔軟な取り組みを見ることが出来ます。

この一見ファジーな関係をバックアップする為に、しっかりした知財についての知識と経験が必要なことは言うまでもありません。
つまり、知財の知識が「オフェンス(offense)」でも「ディフェンス(defense)」でも無い…新しい「コイグジスト(co−exist:共存)」の形に結晶している点です。

知財に於ける共存共栄は、差し詰め「使用権の設定」や「ライセンス契約」などが連想されますが、自由な新しい働き方を定義する為にも、知的財産の知識が有用であることを実践し、証明しているのです。
大袈裟ですが、こういった新しい働き方の浸透が、冒頭の「デザイナーの地位」を高めていくヒントなのかも知れません。

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創作的な仕事を目指す私達が、近い将来、理解ある経営者の下、新しい雇用形態の中で腕を振るうことが出来る時代が…既に幕開けていることに、大きな期待感を感じます。

そして…

謎のイラストレーター”かずはりんぬ”の正体とは…

つづく(…のかな?)

 

左から、スタッフの馬淵さん、藤原代表、かずはりんぬサン、わたくし金澤、下尾先生

 

プロダクトデザイン 金澤