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卒業生紹介

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画家 伊藤香奈さん


Profile

伊藤香奈さん

伊藤香奈/1978年愛知県生まれ。
2001年名古屋造形芸術大学美術一類洋画コース卒業。
2003〜05年洋画研究室職員として勤務。
2005年東京都に引越。2008年千葉大学大学院教育学研究科美術教育専攻修了。

現在は、画家、イラストレーターとして活動中。以下、展覧会や活動歴など。

2004年山画廊(四日市)で個展 以後毎年。2005年GALLERY IDF(名古屋)で個展 以後6回。
2006年ギャラリーゴトウ(銀座)で個展 以後毎年。2009、11、14、16年千葉大学医学部附属病院壁画制作。
2011、12年絵本制作(発行 千葉大学医学部附属病院、協力 小峰書店)。
2012年キャラクターグッズデザイン(千葉大学医学部附属病院)。
2015年パークホテル東京(汐留)客室壁画制作。

伊藤香奈のお絵描き日記 ~Ito Kana's painting diary ~

「花のベール」(1167×910mm キャンバスにアクリル絵具 2017)

瓢箪人形の作品、著名な方にお買い上げされたものも。

なぜ美大へ進学をしようと考えたのですか?

クレヨン持てるようになった時点で、広告の裏とかにラクガキを始めていたらしく、親が「お絵かき教室に入れてみようかな」って思ったみたいです。2歳ぐらいから通っていて、高校まで続いていました。その教室で「絵の入試で進学できる大学があるよ」という情報を教えてもらい、早めに受験対策の画塾に行ってみて、それで周りが上手すぎたら諦めようと考えていたんですけど…いざ夏期講習に通ってみたら、最後のデッサンコンクールみたいなやつでたまたま上位になってしまい、これなら美大行けるかも!?と、調子に乗りました(笑)でも、あの時に上位になれたのは静物デッサンだったからで、石膏デッサンは全然上手じゃなかったです。
高校は普通科でしたね。

名古屋造形はどういう学校でしたか?

ダヴィンチの作品はすごく上手いと思うけど、ルソーの方が"きゅん"とくる。名古屋造形はそういう方針ですよね。なんか心に響く、を学ぶ学校。
美術って、上手に描くだけなら別に大学行かなくてもできちゃうこと。自分が自分らしくいられたら、それでいいんだよって言ってくれる。他のものが不得意でも、絵を描くことが好きなら、それ良いよねって。そういう平和な世界良いよねって思わせてくれる学校でした。美術で学ぶことって、本来そういうものだとも思います。

どんな画材で描いていますか?

トールペイントというものに使われているセラムコートというアクリル絵具を使用して描いています。マットな感じの色彩やペタペタ軽く塗れる水っぽい質感が気に入っていて。日本画の顔料でも重いし、油絵具もテカっとしていて、色んな画材の中で、一番このセラムコートが合っていますね。

「美術」についてどう思いますか?

楽しいですよ。高校生のみんなは、あんまり興味惹かれない? 古美術とか骨董だと思ってしまうのかな、美術っていう名前に馴染みが無かったりするかもしれないね。
呼び方って難しくて、先日テレビでしめ鯖をハンバーガーのバンズに挟んだものを「しめ鯖バーガー」と呼んでいたんです。でもそれって実質「しめ鯖サンド」ですよね。もはや肉がないからバーガーじゃないけど、「しめ鯖バーガー」と言うことによって、受け入れられやすかったり、新しいものとして注目してもらえたりする。サンドとバーガーの本来の意味は、「しめ鯖バーガー」には必要ないんです。
美術って名前が古いのであれば、変えた方が良いのかもしれないとも思うのですが、あんまりそういう呼び名に捉われすぎないでほしいかな。私が展示でお世話になっている画廊さんでは、私みたいなアクリルの絵を飾ってくれる時もあれば、コミックイラストっぽいものを展示してくれたりもしていますよ。
色んな考えを受け入れてくれない人って多いと思う。高校までの授業では、ほとんど答えが一個。でも美術には、答えが沢山ある。以前、教育学部の大学院に通っていたんですけど、美術科なのに制作しなくても先生になれちゃう。モノをつくるということをちゃんとわかっているのかなって疑う人も多くて、そういう人が先生になったら、わかんないものを教えるのだから、わかんないんですよね。人の顔だって、四角い変な形の顔を描いたって、別におかしくないこと。それはそれでいいよって教えないといけない、そういうのが美術じゃないかな。

どのような思いで作品を制作していますか?

絵を描くことは好きですけど、ウキウキした楽しさじゃなくて、「今日も描くか~」っていう気分。「そろそろご飯食べよっかな~」ぐらいの気持ちで描いています。
あと、土器とかハニワとかが好きなんです。作られていた時代よりも遥かに後になっても大好きって言う人もいれば、当時も大人気だったものかもしれない。あれはアートなのかデザインなのか、分からないジャンルだけど、そこに私が思う、美術の原点的考えがあります。そういう想いで絵を描いてます。
東京国立博物館にハニワコーナーがあって、他のコーナーよりゆるいんですよ。それが良いんです。飛んでいる形の鳥のハニワとか、くちばしがとんがってるからワシですって書いてあったり、ちょこっとしか違わないのにイノシシとイヌとか分かれていたり。ハニワ、面白いですよ。

好きな作品はありますか?

かわいいものとか素朴なものとか好きなんです。仙厓義梵さんの犬の絵とかも、きゃふんって文字が書いてあるやつなんですけど、好きです。作品って、なんやかんや意味がついちゃうんですよね、人となりとか考えが滲み出ちゃうものなので、表すだけじゃなくて、ついつい現れちゃう。そういう「表現」が好き。かわいさとかゆるさとか、本質が隠し切れていないのが、良いんですよね。

展示をやる時や制作をしている時に、心掛けていることはありますか?

美術に馴染みのない人にも、美術はたくさんの答えがあるんだよって伝えようとしています。全ての答えが一つしかないっていう世の中になってしまったら、私たちみたいな多くの人が不幸になっちゃうので、そういう世界にはしたくないです。
あとは、絵で稼いで生きていけるぞっていうことを証明するために、絵だけでどこまで生きていけるかっていう実験を自分自身でしています。大学出て、研究室で2年間働いてから以降は、少しのアルバイトや大学で先生の手伝いをしただけで、もう20年ぐらい、絵だけで生きていけるよって、証明し続けていますね。
絵で暮らしていけるのかの答えは、今のところ10数年、大丈夫、です(笑)

展示はどのような経緯で開催しているのですか?

私が主に開催している画廊は、四日市の山画廊さんと東京のギャラリーゴトウさんです。両者とも、自分が良いなって思う作家さんを扱っていて、いくつもギャラリーを周って…というわけではなく、狙い撃ちみたいな感じで足を運び、DMや名刺を渡し、そこから声を掛けていただき、今に至ります。
山画廊のオーナーさんは生活の中にアートを取り入れたいと考えていて、ギャラリーの雰囲気もホワイトキューブではなく机や椅子がある普段の生活に近い環境です。しかも私みたいな絵もあれば、ピカソやシャガールの版画とか、はたまた箪笥とかも販売している。たくさんの世界がひしめいている空間で、楽しく展示させていただいてます。

大学に戻れるとしたら、やりたいことはありますか?

1時間半ぐらいかけて通っていたので、ヤマモモを採るとか、先生や先輩達と飲みに行くとか、余計な時間を過ごしたかったかな。でも今からでもできるし、あんまり後悔してることはないですね。

美術をやるのに向いている人は?

誰でもできると思いますよ(笑)
小さい頃絵を描いたりとか物作ったりとか、みんな、していませんか?甥っ子は体動かすのが好きな子ですけど、最近、アスリートの人達も表現者として扱うのであれば、身体表現なども美術として考えられますしね。

今後どうしていきたいですか?

穏やかに暮らす、をテーマとして生きていきたいです。あとは、「お絵かきで生きていけるのか」という実験を、ずっと続けていきたいです。手が震えても手足がなくなっても、どうにか描けるじゃないですか。なにが最終的に描けないというトドメになるのか、なにが起きても描けるんじゃないかなって思っているから、実験結果を自分でも想像できていないです。お金が無くなっても、農家さんに住み込みで働けば大丈夫っていう当てもありますし。楽しみですね。

絵を描きたいと思う高校生にメッセージを!

見ている世界の事しかわからないと思うんだけど、美術の幅の広さをもっと知ってみても良いかも、と思います。
デジタルだと、タブレットとかパソコンとか、なくなっちゃったら描けない、でも私はアナログという世界も知っているから、砂とか泥があれば絵を描けちゃう。これは極端かもしれないけど、でも、皆がデジタルで絵を描いていく世の中になったら、私たちみたいな手で描く絵描きは稀少価値が出るのかもしれません。それもある意味、ライバルがいなくなるのでありがたいことですね(笑)
洋画で習うテンペラ技法とかを、実際に制作でやっていないということも一緒かなとも思うんですが、場所だったり時代だったりで、無くなる物があるのはしょうがない。だけども、それらを知っておくことは大切だと思います。