江本先生
あっという間に6月。梅雨入りです。
欅(けやき)の木立の緑のトンネルを抜けるとキャンパスも薄青色に低く煙っています。

私の名は、江本菜穂子。この伸びやかな自然のキャンパスの片隅で「西洋美術史」に関する科目を担当しています。

“『風立ちぬ』便り”としたのは、想像がつくかもしれませんが、私の名前が、堀辰雄の小説「菜穂子(なほこ)」に由来しているからです。
こよなく文学を愛していた父が、私の誕生にプレゼントしてくれた生涯に亙る宝物なのです。

プレゼントといえば、シャガールの「花束」のエピソードを思い出します。(つい先日まで愛知県美術館で開催されていた「シャガール展」でご覧になった方はもちろん、現在開催中のメナード美術館の「シャガール版画展」でもシャガールの作品に出会えます。)
貧しくて、花など何もなかった彼のもとに、最愛の人ベラが窓辺に花束を手渡すのです。

― ベラが戸口をノックする。彼女は薄い、ほっそりとした指でおずおずと叩いた。胸に抱いた両腕に、暗い緑と赤みがかったななかまどの大きな花束を抱いていた。「ありがとう、ありがとう」。―
(マルク・シャガール著 『シャガール わが回想』 三輪福松、村上陽通訳、朝日選書)

この後、花束はシャガールの何物にも変えがたい彼の愛のシンボル、幸せのモティーフになります。素朴なななかまどの花は、その後、彼の作品に描かれる美しい色とりどりの花々に結晶し、咲き続けるのです。

私は、3年前にニースのシャガール美術館を訪れました。紺碧の空と青い海。強い夏の日差しの中に、美術館は静かな佇まいで建っていました。写真はその時の様子です。

晩年彼が力を注いだ聖書の作品が息づいていました。シャガールの長い人生での終焉の地です。
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私の授業では、その時々、多角的に西洋美術の作品について、そしてその時代や現代(いま)を語っていきます。

そろそろ、キャンパスに「風が立って」きました。皆さんには、それぞれの風を感じてもらいたいものです。でも、しばらくは雨模様・・・

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