ロシー
この作品は、ともに過ごす時間と、過ごせない時間のあわいに立ち現れる。 やわらかな毛並み、あたたかな重み、そして静かな気配。 それらは不在の中で何度も反芻され、かたちを変えながら私の中に根づいていく。私の制作は、そうした記憶の断片をすくい上げ、手の動きや身体感覚を通じてかたちへと翻訳する営みだ。それは、姿が見えないときでさえ、共にいた確信を繋ぎ止めておくための、私なりの静かな祈りなのだ。
この作品は、完結した「もの」ではない。ロシーと共に刻んだ時間の痕跡であり、今この瞬間も更新され続ける、終わりのない対話の記録である。
情報表現領域 大井 はるか Haruka Oi
担当教員コメント
本作は、愛猫ロシーと共に過ごす時間と不在の間を、切実な身体感覚を通して捉え、定着させた秀作である。 記憶の反芻という内省的な営みを、即時的な表現に留めず、素材やモチーフに触れる手の動きや過ぎていく時間そのものを内包していく操作によって独自のメディアを立ち上げていく。かたちを変え、更新し続けるプロセス自体が表現の核となっている。
また、このプロセスはインスタレーションとして展示することで特異な広がりを獲得している。私的な対話の記録が空間に配置されることで、気配のようなものが立ち上がり、鑑賞者自身の身体感覚や、誰かと共に過ごした時間や、またその不在を想う記憶とも深く共鳴する開かれた体験へと昇華されている。
不可視の確信を空間的・時間的な体験へと変換していく真摯な探究が、今後さらに深化していくことを期待している。

