橙


冬に橙黄色に熟すも実は落ちず、夏にはまた緑色に戻り、再び橙黄に色づく。そして数年枝から落ちず「代々続く」という意味で名付けられた「橙」という果実があります。 今まで私たちが得てきた全てのものは橙のように何度も色付き、新しい色に変わってきました。そこに存在する大切にしながらも見送ってきた大好きなものたちは今、肥沃な大地となって私を支えてくれています。そうして結んだ実は色付いても落ちる事なく、また新たな出会いと別れを繰り返し私を実らせる。そんな時間をテーマにしました。 切り絵を使った空間アートで、奥へと切り絵を立てかけ1枚の絵に奥行きを出しています。そこには自分の身の回りにあった大切なものたちが、ずっと動かずそこにある朽ちた姿で並んでいます。戻りたくても戻れない記憶の世界に自らが入り込めるように、同じ場所にある朽ちて動かなくなってしまった列車をイメージした建具も一から制作しました。 静かな夕暮れに自分だけの記憶の秘密基地に入り込み、椅子に座り窓の外を眺めれば、自分の大切なものを傍で感じられる。そんな作品にしました。
情報表現領域 作石 大河 sakuishi taiga
担当教員コメント
「橙」と題されたこの作品は奥行きのある立体的な切り絵から思考が始まった。 秋に色付き、熟しても実は落ちず夏にはまた緑に戻る。四季を巡るこの橙に想いを重ねて自身の経験した色褪せない記憶を紡ぎ出した。 子供なら誰でも憧れる秘密基地に自分の宝物を並べたいという想いを形にすべく膨大な制作時間をかけて汽車を思わせる古い車両を制作。車窓から見える景色は切り絵。後ろから夕陽をイメージして照明を当てている。切り絵を幾重にも並べて奥行きのある空間を演出。四つの窓にそれぞれ春夏秋冬の景色を配置。その懐かしい風景には幼少の頃の思い出のモチーフが散りばめられている。 実った果実が数年落ちずに幾代も実り続ける橙のように、今までの出会いと別れ、これからの新しい出会いと別れが交差する作品に仕上がっている。 立体を作り上げる技量、世界観を表現する妥協のない姿勢は他の学生の模範となる優れた作品である。