齋藤智愛さん

 

―美大受験を決意したのはなぜですか?

高校は仙台育英学園という普通科の学校に通っていました。元々歴史が好きで、当時は発掘調査などを行う考古学の研究者になりたかったんです。なので、大学では文化や歴史を学ぼうと思い母に相談したんですけど…賛同を得られなくて。それで他に何かやりたいことあるかな?と考えている時に、何気なくテレビを見ていたら、古い織物の修復についての番組を観たんです。とても心惹かれて、修復という仕事もよく調べないまま、とりあえず染織が学べるところに行けばなんとかなるだろう!と、美大を目指しました(笑)修復の研究者などを志す場合、修復の研究室がある大学へ進学するべきだったと思いますが、当時、私も母もよく知らなかったんです。でもその勘違いが幸いして今の私があるので、後悔はしていません。
あと、母が着物の着付けをしていたこともあり、昔から着物が好きなことも関係しているかもしれません。歴史や古典文学が好きで今では再現できない美しいものを、見て触って感じて、何かがしたいなと考えていました。なので、作りたいというよりも、直したり、伝えたり、残すことをしたくて美大へ進学しました。

―幼少期はどう過ごしていたのですか?

小さい頃は野山や川など身近なところで遊んでいました。外で花を摘んだり、虫を採ったり。美術品を見に行くようなことを、特別心掛けていたわけではありません。

―名古屋造形大学はどのように知ったのですか?

仙台での大学説明会に、追々の恩師である名古屋造形大学の先生がいらっしゃっていて、「ちょっと、ちょっと、こちらに来て下さい」って、手招きして呼ばれたんです(笑)そこで説明を受け、大学の資料を持って帰ったのが、最初に知ったきっかけです。
当初志望校は染織関係の他大学を受けましたが、縁がなく。美大自体をあきらめようかと考えていたのですが…母が「後期入試あるから、名古屋造形大学受けに行ってみよう」と。今思うと、母自身が美術をやりたかったんでしょうね、だからその気持ちを私に託していたと思います。やりたいことを全力でやらせてやろうって、応援してくれていました。

―産業・工芸コース(現ライフデザインコース)はどのようなコースでしたか?

少し特殊なコースだったと思います。木工、陶芸、プロダクト、染織、彫金など1、2年生の時は一通りやってみてそのあと3年生で自分のやりたいことを選ぶ。いろいろ学べてとても充実していました。
いろいろミックスなコースだったから、いろんな人がいてたくさん刺激がありましたね。

―印象に残っている授業はありますか?

日本美術史担当の池田洋子先生による、学芸員資格を取るための履修必須の講義があったのですが、あれはインパクトがありました。1・2限続けて行う講義で、一週間調べて、一人一人研究発表をして、それを繰り返して、最後は図録にまとめる。展覧会を企画する流れを勉強できました。私は能の女役を表すための唐織と呼ばれる織物を選びました。今も興味を持って研究しています。

―名古屋造形大学に入学してどうでしたか?

元々第一志望ではなかったのですが、まったく後悔していないです。名古屋造形大学は垣根のないキャンパスっていうのが、良いんですよね。たくさんのコースの友達や、ありとあらゆる工房の先生や職員さんたちが、こっちにおいでって、呼んでくれるんですよ。リトグラフやエッチングなど、他分野の技法も友達を介して学べましたし、本当に良かったです。

―学芸員の仕事で、大学での勉強が活かされていると感じることを教えて下さい。

仕事で作家の方とお話をする機会がたくさんあるのですが、技法などについて基礎知識があるので、お話がしやすいです。もちろん美術史はとっても大切なのですが、自分が実技を学んでいたということは、すごく強みになっています。作品に使用されている技法はどのようなものか、素材はどのようなものを使っているのか、実技を学んだからこそ、理解しやすいと思います。

―美大から学芸員になるメリットとデメリットを教えて下さい。

実技の基礎を学んだうえで作家・作品を研究したり展示できることがメリットです。
作品についてわからないことがあった場合、作家に聞いたり、本で調べたりしますが、知識として頭では理解できても、実際に使われている技法や道具などをすべて結び付けて理解することはとても難しいことなんです。例えば、織技法の平織と綾織の説明を受けても、受けた時、どちらがどちらの織機か、パッと判断するのが難しい。私は学んできた基礎があるから、判断しやすいです。研究をしながら実技を学ぶこともできると思いますが、働きながらですと難しいですしね。
でも、美術史は本当に弱い、それは間違いなくデメリットだから、人一倍学ぶ必要があります。

 

△  齋藤さんが携わる岐阜県美術館の展示作業風景

―大学で実技を習った上で、なぜ作る立場ではなく学芸員という見せる立場に惹かれたのですか?

作ることも楽しかったのですが、魅力的な作品を作る人はたくさんいるなと気づいたからですね。あとは社会の中には、アリとキリギリスがいるというお話しを伺ったことがあり、その話では、キリギリスは美術を志す人、アリはそれをみたり楽しんだりする人。キリギリスはちょっとで良いんですよね。そう考えた時に、私は作家たちが活動できる場を作りたい、美術を広げる為の場所を作る人になりたい、と考えました。

―本格的に学芸員を目指そうと思ったのはなぜですか?

学芸員実習で宮城県美術館に行き、当時、教育普及部長でいらっしゃった齋正弘さんの実習プログラムを受けた際に、美術ってなんて面白いんだ!と感激して、そこから学芸員を目指そうと思いました。
齋さんの考えをうまく伝えられないのでここでは割愛させてください(笑)でも本当に面白いので興味がある方は調べてみてください。内容を省略してしまって申し訳ないのですが、美術というものは美しいもの、残して広めなければならないものだと思っていたのですが、実習を受けてからは本当に美術って楽しいものだと思いました。
10年たった今でも、齋さんがおっしゃっていた「美術」のことを考え続けています。

―美術館ではどうやって作品を観ればいいですか?

何よりもまず、作品と向き合っていただきたいです。作品には、美しい!と感じるものも、一体これは何なんだろう?と思うものもある。とりあえず「なんだか気になる!」と心に引っ掛かった1点をじっくりと読み解いてほしいですね。

―読み解くことにチャレンジして、とのことですが、その読み解くヒントを教えて下さい。

たとえば、一枚の絵を前にして「これは何だろうな」って自分に問いかけるんです。すると、これは美術館にあるから美術作品だろうな、と、当たり前の「作品」という認識の前に、そのもの自体が何なのかというところから考え始める。そこでは思い浮かんだことを、そのまま、より深く追及してみる。美術作品だとするなら、これは絵ですか?鉛筆、筆、手のひら…どうやって描かれているんですか?どんな人が描いたの?キャプションを見て作家の年齢は?男?女?…と、いろいろな方向から作品に潜っていく。作品とか作家すごい!ではなく、その存在自体を考えてみる。すると自分なりの作品の見方が組みあがっていきます。
以前、お皿を展示した際、子供たちに「どれをお家に持って帰って使いたい?いいよ、一個貰えるとして、考えてみてね、どこに飾る?それとも使ってみる?」と問いかけました。そうやって、自分の中に取り入れながら、あーでもないこーでもないと考えることで楽しめると思います。

―美術にあまり興味のない学生が、美術館に来た時に、どう接しますか?

無理に作品を見なくていいので、興味のあることを教えて欲しいなと思います。話をしながら、ぐるっと美術館を一緒に歩きたいですね。

―好きなものを見つけるにはどうすればいいと思いますか?

突っ立っているだけじゃなくて、歩き出した方が良いです!(笑)
好きは、探すしかない。いろんなものを見て、とりあえず自分の心に引っかかったものを3つ決める。その3つを今度は掘り下げてみる。
3つは別に何でもいいんです。食べることでも音楽を聴くことでも。食べることに一番引っかかったなら、今度はどうしたらより美味しく食べられるのかな、美しく盛る為にはどうしたらいいかな、そうやって気にしてみて、いろいろな方向から一歩を踏み込んでいくのが大切だと思います。

―尊敬している方はいらっしゃいますか?

上司である、岐阜県美術館副館長の正村美里さんです。工芸を今までご担当されてきた方で、とても尊敬しています。そして…正村さんの人柄だと思うのですけど、作家に愛される方なんです。向き合う姿勢がまっすぐで、優しくてとてもカッコいい方ですね。

―今後どのような展示をしていきたいですか?

まだ自分の自主企画展は行っていないのですが、やはり人の感情を揺さぶる展示をしたいです。様々なことを考慮しながら企画を考えなければいけないですが、自分自身、人の心がどう動くのか、というところに興味があるので。

―学芸員に向いている人はどのような人だと思いますか?

先輩方がサポートしてくださるので基本的には何とかなりますが、心から美術が好きな人、ですかね。どんな仕事も一緒ですが、大変なことは必ずあるので、時には嫌になっちゃうことや辛いことがあるんです。でもそんな時に、好きなら乗り越えられる。辛くても作品が好きだから、作家が好きだから、動けちゃうんですよね。

―最後に、高校生や在学生にメッセージを!

美術ってとっても悩むと思います、私自身悩みが尽きませんし!(笑)それでも憧れること、やりたいことがあるなら、必ず応援してくれる方がいるので、前に前に進んでください!在学生のみなさんは、とにかく興味があることはとことんやってほしいです。中途半端はもったいない。学費を払ってくれる家族、学びの場を提供してくださっている先生方にも申し訳ないですし、この自由な環境を思う存分利用した方が何より自分にとって得です。
そして、誇りを持って学んで、作り続けてください。私たち学芸員は、みなさんの作品をたくさんの人に見せていくから。

 

齋藤智愛

産業・工芸コース 染織専攻 卒業
学芸員