2017年度 名古屋造形大学 入学試験要項
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26国語(近代以降の文章)時 間:1時間2016年度 一般入学試験(前期) 次の文章を読んで後の設問(問一~問七)に答えなさい。解答はすべて、解答用紙の解答欄に記入しなさい。 ある朝、いつものように好きな小道を歩き出してまもなく、私は足をとめた。とめざるを得なかった。   Ⅰ  そこへ入れたと思われるほどの大型ダンプが、道の行手をふさいでいたからである。 身をせばめて、その横を通り抜けた私は、思わずつぶやいた。「ああ、ついにここも……」 ショベル・カーが入って、緑はなぎ倒され、平屋造りの家も半ば壊されていた。 木立に囲まれたその家は、こぢんまりと落着いたいかにも趣味のよい家であった。秋には紅葉が美しく、野鳥の姿が四季、目についた。 冷暖房など考えれば、多少の住みにくさはあるかも知れぬが、隠居の身になったら住んでみたい。 他ひと人さまの家でありながら、そんな気を起させる家で、散歩道での楽しみのポイントであった。 きびしい税制のため、この町でも、残っている緑が急速に少なくなっている。鳥たちは、  Ⅱ  、どこへ行き、どうなってしまうのだろうか。 大きな農家の出である当市のN市長は、渡り鳥のために欅けやきの巨木を幾本かその庭に残し、一方では、捨てられたチャボなどが住みつき、そのチャボが鶏たちの親分面づらをしているーなどといったエッセイを、ときどき広報紙に寄せたりして楽しませてくれているが、そAうした奇特なことのできる家は、市内にもはや数えるほどしかあるまい。 私の書斎は、駅近くのマンションに在る。市内を見下ろす形で展望だけはよいのだが、その眺めの中から緑は消える一方で、代わって灰黒色に煙る建物の海がひろがって行く。 このため、その先の海の色までが元気を失ない、冴さえない感じになっている。 となると、こBの町の緑は、三つほどあるゴルフ場にしか残らぬのではないかと、心淋しくなってくる。 一方、眼を休めるためには、遠くを見るのがよい、という。 しかし、ここまで変貌してしまうと、かえって眼を痛める気さえして、最近ではほとんど窓に眼を向けることがなくなった。   Ⅲ  、昔と変わらぬ眺めも、少しは残っている。 たとえば、風の強い日など、元気を取り戻した紺色の海の向うに、大島がゆったり浮き上り、さらに、その西に律儀な従者のように利としま島が寄り添う。 山容に多少の変化はあったとしても、それらは何千年か何万年か前から、そして、これからもほぼ無限に続いて行く眺めのはず。 夕日の眺めも同様で、富士の肩を柿かき色に染め、背後の空を朱から紫へと変えながら沈んで行くさまは、幾度見ても飽きることがない。 と同時に、その度たびごと毎に、平凡な思いにとらわれてしまう。 これらの眺めに比べれば、寿命が延びたとはいえ、われわれ人間など、ほんの一閃、この地球を通過するだけのこと6-1二〇一六年度 名古屋造形大学一般入学試験(前期日程)『国 語』問題用紙一(a)(b)(c)6-2ではないかーと。 こCの冬は、いまひとつ、大自然の力に圧倒された。二度にわたる大雪である。 町は白一色に蔽おおわれて、久々に美しい眺めになったものの、交通は麻痺状態。JRも小田急も、申し合わせたように運休、次に大幅間引き運転。 車で行こうにもチェーンが買えない。暖冬という長期予報のため、製造も在庫も手控えたせい、という。 明日の天気もわからぬくせに、三ヶ月の長期予報を出し、結果については何ひとつ責任を取らぬ気象庁のノー天気。   Ⅳ  役所こそ、即刻民営化して的中率を競わせ、淘とうた汰すべきではないのか。 そうした中で、しかし、正常運転を守り抜いた私鉄があった。東急田園都市線である。 大雪はその沿線にも容赦なく降ったのだが、「正常運転の記録を守ろう、おれたちもオリンピックだ」と、全従業員が現場に繰り出し、がんばり続けたためという。 長野とはちがい、大拍手や涙こそなかったが、気概が雪に勝ち、多くの人々の役に立った。「D経営とは世の中の役に立って、儲もうけることだ」 とは、同社の総帥五島昇の口癖であり、天国の同氏の微笑する顔が目に見える気がする。 今年の異常気象は、例年になくエルニーニョが発達したためというのが、気象庁の後講釈だが、五島と親しく、これまた在天の本田宗一郎が聞けば、雷を落とすところであろう。「例年なんてものはない。一年一年がちがうものなんだ」 このため、一年一年、新しい年として向き合え、というのだが、その考え方を延長すれば、一月一月を新しい月として、一日一日を人生での新しい日として迎えよ、ということになる。 そうであれば、おどろくこともないし、あわてることもない。その一方、かけがえのない一日として過ごせ。 つまり、「この日、この空、この私」の思いで生きよ、ということにもなる。 それにしても、この冬は大型倒産、失業、少年少女の非行と、暗い話が多かった。 最後の問題については、町村文相が学校の週休二日制を「よい話なので前倒しでやる」と発言したが、その「よい話」とは、日教組や地方自治体の要求に応えてのことと、あるテレビ局が解説。なるほど、そちらの筋にはよい話であろうが、子供たちにとってはどうなのか。 塾、ファミコン・ゲーム、携帯電話へいよいよ深入りさせ、「考える葦あし」どころか、「考Eえぬ足」にし、非行への道をひろげるばかりにならぬか。   Ⅴ  教育の最大の課題は、子供たちに考える時間、考える習慣を持たせることであり、それには、「朝の十分間読書運動」などが確実に効果をあげている。 それを全国的にひろげることだと思うが、一部の教育委員会は逆に抑圧にかかっているといい、登校時間の短縮を口実にしてせっかく芽生えている心の緑の芽をつむことにならぬよう、くれぐれも願いたいものである。(城山三郎『無所属の時間で生きる』による)(d)(e)選択科目美術アニメーションマンガグラフィックイラストレーションデジタルメディア建築・インテリアプロダクトジュエリー●●●●●●●●●対 象コース:試験内容

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